「犯人のフルネームは○○」「住所は○○市1丁目の○○マンション」「同級生の○○も共犯です。見かけたら通報してください」――世間を騒がせる事件が起こった時、その当事者の詳細な個人情報をネットユーザーが拡散するケースが増え、問題視されている。

最近では川崎市で起きた中学1年生殺害事件の犯人たちを筆頭に、不謹慎な画像を撮影しツイッターにアップロードした学生、クラウドファンディング(オンラインで出資者を募る仕組み)サイトに自分本位な出資案件を載せた若者など、さまざまな個人が“善意のネットユーザー”によって氏名、住所、学校名などを特定・拡散された。

対象の多くは少年法で実名報道を制限されている未成年者であり、さらに誤爆(事件と無関係な人のプロフィールが拡散される)も相次いだ。相手が犯罪者、または社会道徳に反する行為をした者であれば、ネット上に個人情報を晒しても良いのだろうか?

今回はそうした法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の鈴木淳也弁護士に取材し、“ネットで個人情報を拡散した場合は法的な責任を問われることがあるのか?”を、7つの具体的な事例に当てはめて聞いてみた。
 

事例1・他人がネット掲示板に書き込んだ犯人情報をツイッターで拡散(リツイート)した

ネットに出回っている犯罪者の氏名、住所、家族構成といった情報を見て、「これが犯人らしいですよ」などと自分が拡散に加わる行為。考えられる最もポピュラーなケースだが、鈴木弁護士によれば「名誉毀損で処罰される場合と、そうでない場合があります」という。

名誉毀損で処罰されるかどうかの主な判断基準とは、1.拡散した情報が公共の利害に関する事柄であること、2.専ら公益を図る目的であること、3.真実であること(または真実と信じることが相当であったこと)。
これらを満たさない限り、リツイートしただけでも名誉毀損として法的な責任が発生するかもしれないのだ。

「重大事件であればリツイートする人間の数は膨大になるので、実際にそれだけで全ての人が法的責任を追及される可能性は高くないと思われます。しかし面白半分で個人情報を拡散する行為は、少なからず違法性を含んでいることを知っておいたほうが良いでしょう」(鈴木弁護士)
 

事例2・地元で凶悪事件が起こり、たまたま犯人(と思われる人物)が同窓生だったため、卒業アルバムの写真をネット掲示板へアップロードした

「犯人の名前は○○」というネットの書き込みを見て、「そいつの写真なら持ってるよ」と不特定多数に公開してしまった場合。肖像権の侵害にあたり、しかも自分自身が情報拡散の一次ソースとなってしまうことから「単なるリツイート行為よりも法的な責任は大きくなります」と鈴木弁護士は話す。

「また、犯人だけでなく家族の名前や写真をネット上に晒した場合も名誉毀損・プライバシー権の侵害で法的リスクが生じます。こうした行為は必ずしも正当な行為と判断されるわけではないため、気軽に犯人や家族の個人情報を公開することは勧められません」(同)