ふたりにとって、何度も読み返すような大切な本とは?

――嘉雄と絹子は本を通じて心を通わせていきましたが、おふたりにも何度も読み返すような大切な本はありますか?

東出  僕は子供のころに読んだ、「サンタクロースってほんとにいるんでしょうか? 子どもの質問にこたえて」(偕成社/イラスト:東逸子、翻訳:中村妙子)ですね。アメリカの新聞記者の方が、夢を壊さずに子供の質問に本気で答えていたのがすごく印象的で、好きな1冊でした。

夏帆  じゃあ、私も子供のころの本にします(笑)。昔、クラシックバレエを習っていたんですけど、そのバレエ教室に置いてあった「うさぎのくれたバレーシューズ」(小峰書店/著者:安房直子、挿絵:南塚直子)という本がすごく好きだったから、親にねだって買ってもらいました。いまでもたまに見返すんですけど、その本を読むと、当時のことを思い出しますね。

――嘉雄さんが絹子さんのために本をセレクトしてあげるのも素敵でしたけど、好きな人が自分のために本を選んで、貸してくれる行為についてはどう思いますか?

東出  とてもいいですよね。

夏帆  本のプレゼント、いちばん嬉しいかもしれないです。

――本当ですか?

夏帆  はい。

東出  その人の人となりを知ることもできるし、それが別に好きな異性じゃなくても、本を薦められるのはわりと好きです。

ただ、嘉雄の場合は迷惑と紙一重かもしれない。「それから」「人間失格」「晩年」と太宰、太宰、太宰で押しまくりますから(笑)。

――偏ってますよね(笑)。

東出  相手が絹子さんでよかったなと思います(笑)。

夏帆  彼女が本のことをあまり知らなくてよかったですね(笑)。

東出  本当にそうですね(笑)。

――おふたりも誰かかに本を貸してあげたり、贈ってあげた想い出はありますか?

夏帆  いただいたことはあるけど、贈ったことは……恥ずかしくてできない。私、人の本棚を見るのはすごく好きですけど、自分の本棚は絶対に見られたくないです(笑)。

東出  僕も「贈る」って言って贈ったことはないけど、家でお酒を飲んでいるときに本の話になって「じゃあ、ウチにあるのを持っていきなよ」って言って渡したり、全7巻のまず1巻だけを貸すようなことはあって。

だから、司馬遼太郎の「坂の上の雲」も「竜馬がゆく」も「峠」も全部1巻や上巻がないんです(笑)。みんな1巻目はどこに行ったんだろう? と思うし、そういうことはよくあります。

ふたりが最近お気に入りの本

――先ほど何回も読み返す本の話がありましたけど、おふたりが最近お気に入りの本をも教えていただけますか。

東出  最近では、三島由紀夫文学賞にノミネートされた服部文祥さんの「息子と狩猟に」がよかったですね。

狩猟者とオレオレ詐欺のグループが山の中で出会って……という話なんですけど、すごく面白かったです。

――それは自分で選んだんですか? それとも誰かに薦められて?

東出  人に薦められたんです。

――薦められて読むことが多いんですか?

東出  でも、ジャケ買いみたいに、本屋さんで平積みになっているものを手にとることもあります。読みたいと思う本は後を絶たないし、いつか読むだろうと思って買って、家に平積みになっている本がたくさんあるんですよ(笑)。

夏帆  私もそればっかりです(笑)。いまも、次の作品に関係のある本を読んでいるんですけど、どうしてもそっちが優先されるから、どんどんたまっちゃうんです。ただ私、ミステリーはほとんど読まなくて。小説だったら純文学ですし、あとはエッセイやノンフィクションものが好きですね。

ふたりが気分転換のためにしていること

――本を読むこと以外で、おふたりがリフレッシュできる時間はありますか?気分転換のためにしていることがあったら教えてください。

東出  僕は友だちと酒を飲んでボ~っとすることかな。あとは将棋を指すとか、キャンプに行くとか、そんな感じです。

夏帆  私も、友だちと会って、どうでもいい話をしているときがなんだかんだでいちばんの息抜きになりますね。あと、最近猫を飼い始めたんですけど……。

東出  ホ~(笑)。

夏帆  家に帰ってきて、ウワ~って抱きしめる時間がいちばん癒されます(笑)。

――それでは最後に、おふたりが最近、劇中の嘉雄や絹子のようにドキドキしたり、ワクワクしたことは?

夏帆  ワクワクしたこと? ドキドキしたこと? それもやっぱり猫のことですね。いま、家に来て半年ぐらいなんですけど、どんどん大きくなっていくんですよ(笑)。

東出  ハハハ。

夏帆  それが楽しみでしょうがない。ノルウェージャンフォレストキャットっていう毛の長いもともと大きくなる品種なんですけど、家に来たときは掌に乗るぐらいだったのに、いまは人間の赤ちゃんぐらいあって(笑)。

東出  スゴいね(笑)。

夏帆  私がお風呂やトイレに入るとドアの前にいつも寝そべるんですけど、大きくなり過ぎてだんだんドアが開かなくなってきちゃって(笑)。

でも、そういうところにいちいちキュンとします。女の子なんですけど、いつもイチャイチャしています。

東出  僕は何だろう? あっ、僕、秋刀魚が好きなんですよ。だから、スーパーに秋刀魚が並び出しているのが嬉しいですね(笑)。

――今年は豊漁ですものね。

東出  ですね。そんなに高くないし。でも、高くないとは言っても、以前よりは高いですよね。20代前半のころは一尾80円ぐらいだった気がするけれど、いまは100円とか130円とか、当たり前のようにしているから。まあ、そんなことはどうでもいいですけど、秋刀魚の塩焼きはやっぱり好きですね。

――本当に食べることとお酒を飲むことが好きなんですね。

東出  はい。そうなんですよ(笑)。

黒沢清監督の『予兆 散歩する侵略者』(17)に続いて本作が2度目の共演となった夏帆さんと東出さん。撮影を振り返るふたりの空気感や距離感はとても自然で、映画のテイストそのままに穏やかな時間が流れていたのが印象的でした。

『ビブリア古書堂の事件手帖』では、そんな夏帆さんと東出さんが昭和の名作映画を彷彿させる禁断の恋人たちを時に微笑ましく、時に狂おしい表情で体現していて観る者の心を揺さぶります。

そして、彼らの言動が現代を生きるヒロインの栞子や大輔にどんな影響を及ぼすのか? 映画ならではのスリルと興奮、感動をぜひスクリーンで堪能してください。

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。