健聴者・補聴器ユーザーの隔てなく、来場者は「ウィーン・ピアノ四重奏団」の演奏を楽しんだ

補聴器メーカーのオーティコンが主催する「みみともコンサート2018」が11月2日、東京・銀座の王子ホールで開催された。オーティコンや演奏者のインタビュー、会場の工夫など、当日の様子をレポートする。

みみともコンサートは、補聴器ユーザーが健聴者と同じように生演奏を楽しむことを目的として2014年にスタート。今年で5回目を迎える。オーティコン補聴器の木下聡プレジデントは、「企画は数年前に私がコンサートに行ったときの体験がきっかけです。開始前に補聴器の装用者の方に音漏れがしないようにといった趣旨のアナウンスがあったのですが、もしかしたらそれは装用者の方にとって居心地が悪いことかもしれないなと。そんな気づきが原点にあります」を語る。

「聞こえに悩みがある方は、音楽に限らず、あまり積極的に外に出ないという方も多いです。そうした状況を変えていきたい。補聴器を装用することでより活発になってほしい。オーティコン補聴器には『ピープル・ファースト』という理念がありますが、今回のコンサートにも誰もが遠慮せずに音楽を楽しめる空間をつくりたいという思いがあります」。

コンサートに招かれているのは、補聴器ユーザーだけではない。健聴なクラシックファンも含まれている。「補聴器の装用者と健聴者が同じように楽しめることが重要なんです。そのために会場でもさまざまな工夫を凝らしています」(木下プレジデント)。

工夫の一つが、補聴器ユーザーの音楽鑑賞をサポートする「磁気ループシステム」だ。これは、特定の範囲をワイヤーで囲み、その内部に磁気誘導アンプを通して変換した電気信号を送る仕組みで、テレコイル内蔵の補聴器や人工内耳に音を感知させることで、ハウリングを気にせず直接音を届けることができる。みみともコンサートでは、この磁気ループシステムが会場全体に張り巡らされている。

また、情報保障のもう一つの方法として、演奏の合間に挟まる挨拶などの内容の要点を伝えるための工夫もある。それが、ステージ上のモニターに写し出される要約筆記。音声がほぼリアルタイムで画面に表示されるので、聴力に問題があっても内容を理解できる。シンプルな仕組みだが、バックヤードに複数の要約筆記者が同時に作業しており、ほぼタイムラグなく要点を伝えられるよう、素早くキーを打ち込んでいる。

本番前に、演奏者のダニエル・ゲーデ氏にも話を聞くことができた。ゲーテ氏は、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の前コンサートマスターで、みみともコンサートに1回目から演奏者として参加している。今回は、ピアノ・ヴァイオリン・チェロ・ヴィオラで構成された「ウィーン・ピアノ四重奏団」をゲーテ氏が率いる。

「毎回、さまざまなリアクションをいただけることが楽しい。健聴者だけでなく補聴器を装用している人にも音楽を届けられることは、音楽家にとってもうれしいことなんです」とオーティコンの企画に賛同する理由を話す。

「多くの人に楽しんでもらえるように」という意図はコンサートのプログラムにも反映されている。クラシック曲だけでなく、アップテンポのタンゴや日本の歌謡曲なども織り交ぜた構成は、大人だけでなく招かれた補聴器ユーザーの子どもたちからも好評だ。

会場には展示ブースがあり、補聴器の世界に触れることもできた。また、来場者が近隣の補聴器販売店を紹介してもらっている場面にも出くわした。日本では、まだ補聴器の装用率は世界と比較して高くないが、みみともコンサートは、補聴器や聞こえ、難聴についての理解促進のための啓蒙の機会にもなっている。