5階にある「お土産品・各種雑貨ギフト」には、着物を纏う女性が複数人いて、お茶を振る舞っている

ヤマダ電機は4月10日、訪日外国人などの購買需要を獲得する新業態の店舗を、東京のJR新橋駅前にオープンした。同社では初めて、高級ブランドやコスメ、男性向け治療院関連の別会社がフロア出店と運営をする複合型店舗。前日9日に開かれたプレス説明会で一宮忠男副社長は「この店舗のオープンを機に、(訪日外国人などを対象にした)『ソリューション型』店舗に挑戦する」と、同等の店舗を都内を中心に設置する方針だ。

新業態となる第1号店舗は、「LABIアメニティー&TAX FREE新橋銀座口店」という名称で、白モノ家電を中心に品揃えしていた既存店を改装してオープンした。店舗は、売り場フロア8つを備えた8階建てで、総床面積が約4082平方メートル。JR新橋駅付近のビジネスパーソンもターゲットとしているが、“爆買い”の中心である中国人など訪日外国人を意識した品揃えにした。

今回の店舗では、店舗運営や品揃え、サービスなどで、コスメ・美容サイト「@cosme(アットコスメ)」を運営するコスメネクスト、高級ブランドの買取・販売大手のブランドオフ、男性の脱毛治療を専門にする医療法人社団エムエフシーの3社とコラボで実現した。各社が自社で展開する商品・サービスをヤマダ電機店舗内で販売する初の試みという。

各フロアでは、訪日外国人が買い求めることの多い、コスメ、理容・美容、高級ブランド、白モノ家電などを取り揃えた。全フロアで免税対応を実現しているのが特徴だ。5階フロアには、観光客向けお土産品・各種ギフト雑貨を並べ、尺八や三味線の生演奏を聴きながら、舞妓風の和服を着た複数の女性が茶を振る舞う演出をしている。各商品には、日本円の価格に加え、8%の税金を免除することと、銀聯カード利用で5%の割引することが表示されている。

一宮副社長によると、免税対応する同社既存の20店舗で、売上高の5~7%を占めるまでになっているため、「新橋の新業態店舗で、かなりの押し上げ効果が見込まれる」と、早くも期待を寄せる。新橋銀座口店のヤマダ電機が雇用する従業員は、全員が正社員。そのうち6割が日本語が流暢な中国人か帰化した人で、副店長も中国本土のヤマダ電機で経験を積んでいる。

家電に限って見ると、6階を中心に調理、理美容、健康器具、クリーナーなど、訪日外国人が好んで購入する商品が並ぶ。調理商品では、炊飯器やジューサーなどの品揃えが多く、理美容でも女性の購入が見込まれるパナソニックなど国産商品が並ぶ。PM2.5など環境が社会問題化している中国人に対しては、空気清浄機や加湿器などが売れている。家電商品に関しては、国産品がほとんどで、価格を見ると、国内の量販店より高めに設定されている印象だ。

オープン前日のプレス説明会には、同店舗に出店する3社の代表者が勢揃いした。コスメネクストの遠藤宗社長は「ウェブサイト『@cosme』が実店舗に出るのは初の取り組み。1階フロアを使って、女性に喜んでもらう空間をつくる。外国人に対応するスタッフも、ヤマダ電機側で揃えてもらった」と話す。

ブランドオフは同店舗3階全体でフロア展開するが、同社の安山勉社長は「香港を含め15店舗を展開しているが、当社売上の7割は海外顧客で占める。山田社長(ヤマダ電機)の本気度が伝わってくる店舗だ」と、オープン初日は、5円から1380万円のブランド品を揃えた。異色なのが、8階に男性特化の脱毛治療を施す「銀座ファインケアAGAクリニック」を開業したエムエフシーの出店だ。同社の沖正直理事長は「健康な人をより健康にするため、専門家が治療を行う」と、新橋付近に働くサラリーマンをターゲットに新業態の同店舗で存在感を高める。

一宮副社長が訪日客をターゲットにした店舗を新橋にオープンした理由は、羽田空港から帰国する際に外国人が購入する市場が年間5000億円に達し、年々増加傾向にあるためだ。「新橋は空港に近く、訪日客を相手にする場所としては最適。異業種の企業が手を組んだ店舗は、新しい客層を巻き込むことができる」と、新規顧客を狙う。ヤマダ電機は、子会社のベスト電器を含めアジア中心に海外70店舗を展開している。今回協業したブランドオフなどを含め、海外へ進出する企業と共同で、海外で訪日客を獲得する施策を開始するという。

ヤマダ電機の2015年3月期の売上高は、冷蔵庫やエアコン、4K対応の大型テレビなど高価格帯製品が牽引し、前年度比11.3%増の1兆8939億円。一宮副社長が免税対応できる店舗が5%程度と考えると、訪日外国人向けで1000億円程度を売り上げている。今後、免税対応だけでなく、今回の新業態店舗で新規顧客を獲得し、さらなる売り上げの底上げを図る効果を見込む。家電量販店は、景気の回復や円安の影響など特異要因で、多くの量販店で売り上げが数%程度伸びている。ただし、家電市場全体は、完全に回復したとはいえず、ヤマダ電機だけでなく、“爆買い”する訪日外国人の需要取り込みでは、各量販店がしのぎを削っている。(BCN・谷畑良胤)