三池崇史監督

 ベストセラー作家・東野圭吾の同名小説を、嵐の櫻井翔、広瀬すず、福士蒼汰ら豪華キャストで実写映画化した映画『ラプラスの魔女』のBlu-ray&DVDが11月14日にリリースされる。本作を手掛けたのは“バイオレンス映画の巨匠”三池崇史監督。劇中には激しい暴力シーンもあり、三池イズムを感じるが、実はバイオレンス映画は「全然好きじゃない」という。その真意とは…?

 フランスの数学者ラプラスが提唱した「計算によって未来を予見できる知性を持った者」=“ラプラスの悪魔”がモチーフの本作は、連続した不審死の調査をする地球化学の専門家・青江修介教授(櫻井)が、自然現象を予言するヒロイン・羽原円華(広瀬)や失踪中の青年・甘粕謙人(福士)と出会い、事件に秘められた衝撃の真実へとたどり着くさまを描いたミステリー。

 執筆活動30周年を迎えた東野が「これまでの私の小説をぶっ壊してみたかった」という熱い気持ちで書いた異色作が原作で、三池監督も「東野さんの今までの自分をリセットする気配を感じた」と回顧すると、「お互い関西人で、東野さんはやたら書くし、僕はやたら撮るし、勝手な共通点を感じていた」と東野との初タッグを喜んだ。主演の櫻井とは『ヤッターマン』(09)以来の再タッグ。櫻井の現場での立ち居振る舞いは、国民的スターとなっても「人としてぶれていなかった」と明かし、「そういう芸能人はなかなかいない」と感心した。

 本作の反響を聞くと、「観客にはいろんな意見があって当然のことだからね。それより原作者の方が気になるかな。僕にとって最初の観客だし、原作者がどう思うかが映画の興行としてのスタートだから」と返答。試写会での東野の様相については、「『許容範囲に収まったか…』って安心されていたかな(笑)。『映画として非常に面白い』と言ってもらいました」と話し、公開前から満足していたことをうかがわせた。

 映画にとどまらず、市川海老蔵と六本木歌舞伎「座頭市」に挑戦したり、フンコロガシの姿をコミカルに描いたストップモーション・アニメーション「ころがし屋のプン」や、少女向け特撮テレビドラマ「魔法×戦士 マジマジョピュアーズ!」を手掛けたり、その活躍は多岐にわたる三池監督。

 どのような作品に心が動くのか問うと、「面白いと思えば何でもやるよ。そのオファーが来るか来ないかだけ。こういうのをやりたいとかいう願望はないし、これは俺に向いているな…と考えたこともない。そうじゃないと、大して知識もないのに歌舞伎の宗家と歌舞伎を作るなんて怖くてできないよ」と吐露した。

 また、自分にオファーが回ってくる事情の中には、「予定していた監督がごねたとか、病気になったとか、主演の役者とそりが合わないから降りたとか、いろいろある」と素直に語り、「どこでも守れて、二割三分くらい打てて、特に優れていないけど劣ってはいないし、たまに飛ぶから扱いやすい」と少々自虐的に自己分析し、「やたる撮る」ゆえんにも言及した

 さらに「いまだに『バイオレンス監督』とか、ヨーロッパでは『暴力シーンがないと三池らしくない』とか言われるけど、それはその人の評価で、僕は思ってないからね。バイオレンスもホラーも全然好きじゃないし、絶対に観ない」と意外な発言も。

 では、なぜバイオレンス映画を盛んに撮っているのか? その答えは「作り手としては落とし穴を掘っているみたいでワクワクする」そうで、見ない理由は「自分がはめられるのは嫌でしょ?」と同意を求めつつ、「でも俺、絶対にはめられるんだよね…」とチャーミングな一面もチラリ。その例として、黒沢清監督の『回路』(01)を挙げ、「あれはまずいでしょ。『死は永遠の孤独』(劇中のせりふ)って怖すぎ…」とぼやいた。

 しかし、撮る理由はいたずらっ子感覚だけではない。そこにあるのは「役と、それを演じる人への愛情」だ。とりわけ、「主役を格好良く見せるために存在する“負け役”に加担してしまう」そうで、「主役を演じる人間は放っておいても大丈夫だけど、そうじゃない人たちにも家族が待つ家に帰って飲むビールがうまくて、『役者やっていて良かった~!』と思ってほしい。そんな人たちが頑張ると、主人公に倒されても立ち向かうから殺すしかなく、自然とバイオレンスになるよね」と説明。

 「“愛情”と“バイオレンス”は僕にとって同義語。守るものがなければ闘わないし、怒りもない。愛のないバイオレンスはないでしょ」と言われると、確かにその通りと合点がいった。

 そして、全ての作品は「なぜ生まれて、どう生きていいか分からないけど、何かをつかみたくてもがいている登場人物」の物語であることも告白。恋愛映画もやくざ映画も、生まれてから死ぬ瞬間まで人生を楽しく全うしたいという、人間としての普遍的な思いがその根底に流れている。

 そんな三池監督は昨年からサモ・ハン・キンポーとタッグを組んで中国映画に取り組んでいる。進捗具合は「唐の時代の超大作から、火星に行く話とか、企画だけがどんどん膨らんで、全部で7作品、製作費は総額300億円を超える大プロジェクトになっている」という。

 あくまでも企画段階で、全てが実現するかは未定だが、今年撮影した映画は『ラプラスの魔女』のみ。「やたら撮る監督」にしては寂しい実情に、三池監督は「そのしわ寄せは来年、再来年にくるから」とニヤリ。次の落とし穴は想像以上に深いかもしれない…。

(取材・文・写真/錦怜那)