12月1日にスタートする新4K衛星放送

放送サービス高度化推進協会(A-PAB)のホームページでは、4K8K推進キャラクターで女優の深田恭子さんと一緒に、新4K8K衛星放送が開始となる12月1日午前10時に向けてカウントダウンが行われている。「スタートまで、あと15日」。期待と不安が入り混じる中、11月12日に公表された「BSテレ東4K」の番組編成表をみると、開始初日と翌日の2日間こそ4Kカメラや4K映像設備で制作した4K制作番組の放送枠が長くとられているものの、12月3日からは深夜26~28時の4K通販枠を除いて1日あたり1~2時間、19年1月に入ってからも朝のニュース番組の約1時間30分と、夜のニュースやドラマの約2時間30分だけに激減することが分かった。

配布された番組編成表は4色に色分けされている。緑色が4Kカメラや4K設備で制作し、ピュア4Kなどといわれる「4K制作番組」、青色が4Kカメラと4Kスタジオで収録した「4K独自放送(4K制作)」、灰色が地デジのテレビ東京で放送されている2K画質を4K画質にアップコンバート(アップコン)した「テレビ東京で放送の番組」、白色はBSテレ東の2K番組を4Kにアップコンした番組である。

12月と1月の基本編成から明らかなのは、2Kをアップコンした4K番組がほどんどを占めるということ。アップコンとは、画素数や解像度を補完して高める技術。例えばDVDの標準画質(SD画質)をフルHD画質にアップコンした映像と、最初からブルーレイ規格で収録したBDのフルHD映像を見比べた時のような違いが出る。後者の方が画質がよく見えるのはいうまでもない。

もっとも、4K8K放送規格を積極的に推進するNHKの「NHK BS 4K」では、午前6時から深夜24時までのほぼすべてを4K制作番組で放送するという。あらかじめ、2Kカメラと4Kカメラを使って同時に撮影したコンテンツが豊富に用意してあるのと、4Kよりもさらに高解像度の8K番組を4K画質にダウンコンバートするという手法も駆使しながら、放送枠を4K制作番組で埋めるとみられる。

早くから4Kや8Kの規格や技術の策定に取り組んできたNHKを除いて、民放各局の新4K衛星放送の滑り出しは、おおむね「BSテレ東4K」と同じようなアップコン番組で占められるようだ。「4Kチューナーが発売となったばかりで、まだ視聴者数が少ない中、すべてを4K制作番組で埋めるにはマネタイズの点から難しい。受信料収入を軸とするNHKと、CM収入を基盤とする民放ではビジネスモデルが異なる」という民放からの本音も漏れる。

2011年のエコポイント終了や地デジ放送開始から約7年。テレビの買い替えサイクルに突入し、家電量販各社の上期決算を振り返っても、テレビの売上高は前年を上回って好調だった。全国の主要家電量販店・ネットショップのPOSデータを集計した「BCNランキング」でも、8Kを含む4K液晶テレビと有機ELテレビの販売台数と販売金額ともに12カ月連続で前年を上回っている。

アナログ放送が終了してテレビが見られなくなった地デジのときとは違い、今回は現行の地デジやBS/110度CS放送がそのまま見られるので、当時ほどの大きな買い替え需要は起きない。それでも足元のテレビ販売は好調に推移している。

販売台数の多くを占めるのは、4Kチューナーが内蔵されていない4K対応テレビであるため、新4K衛星放送を視聴するには別途、4Kチューナーを購入する必要がある。また、4Kチューナー内蔵テレビはシャープ、東芝、三菱、ハイセンスが発表しているが、肝心の大手であるソニーとパナソニックがまだ発表していないという課題もある。

いずれにせよ、これから4Kチューナーや4Kチューナー内蔵テレビを購入するユーザー層は、4K番組のキレイさや迫力、臨場感を楽しめるかどうかで購入を決めると思われる。そうしたときに、コンテンツが2Kのアップコン番組ばかりで占められていたら、購入に踏み切るかどうか。一日中、「NHK BS 4K」だけを見るわけにはいかないだろう。

4K番組の製作現場では、ドラマが比較的つくりやすいもののバラエティなどでテロップやマルチチャンネルを採り入れる際に情報量の多い4Kが、人手や時間が大きく膨らむという課題もある。コンテンツとハードの普及には、「卵が先かニワトリが先か」の議論がいつも付きまとうが、新4K8K衛星放送が船出するにあたって、業界関係者が抱える不安はしばらく解消されそうにない。(BCN・細田 立圭志)

「ウレぴあ総研」更新情報が受け取れます