「GS30 2M Shadow+G-Dock」(左)と「GT80 2QE Titan SLI」(右)、元プロゲーマーのマーケティング担当・谷口純也氏

「プロゲーマー」という言葉の認知度が高まり、国内でPCゲームのユーザー数が急増している。それに伴い、ゲームに特化したゲーミングPC市場も大きく拡大している。一般的なコンシューマ向けPCの販売台数が低下するなかで、これは大きなトピックだ。

ゲーミングPCは用途が絞られているため、一般的なPCと異なる独自の進化を遂げている。その傾向が顕著なのが、台湾を拠点にゲーミングPCやパーツを開発するMSIが2015年に発売した「GS30 2M Shadow+G-Dock」と「GT80 2QE Titan SLI」の2機種だ。今回は、この斬新な発想から生み出されたマシンのマーケティングを担当する営業部・システム営業課の谷口純也氏と、開発部のワン・ウィニー氏に製品開発の経緯と今後のゲーミング市場の展望を聞いた。

●ノートPC+ドッキングステーションでデスクトップ並みのゲーム環境を実現

重量約1.2kgの軽量な13.3インチノートPCとグラフィックボードを搭載できるドッキングステーションをセットにした「GS30 2M Shadow+G-Dock」は、組み合わせることで、デスクトップ並みのゲーム環境を実現する変わり種のゲーミングPCだ。「GS30 2M Shadow」は、ゲーミングPCとしてはずば抜けて軽量&薄型で、モバイルPCとして外出先に気軽に持ち出すことができる。

ゲーミングPCに疎い著者からすると、「これだけ大がかりなら、デスクトップPCを利用すればいいのでは?」と考えてしまう。だが、マーケティングの谷口氏いわく、狙いは「ゲームを快適にプレイすること」だけに尽きないと、次のように続ける。「ターゲットは、仕事でもゲームでも同じPCを使いたいというユーザー。ゲーミングPCである以上、性能は申し分ないので、ゲーム以外の作業も当然快適にこなすことができる」と、ゲーマーの隠れたニーズを教えてくれた。

日本では、ノートPCとドッキングステーションのセット販売だけだが、海外ではそれぞれ単体でも販売している。海外のコアユーザーのなかには、家と職場に「G-Dock」を1台ずつ設置して、「GS30 2M Shadow」を持ち歩く人もいるそうだ。

接続方法はとても簡単で、「GS30 2M Shadow」を「G-Dock」の台座に乗せて、背面のコネクタにドックの端子をセットするだけ。ドッキングステーションの横に付いているレバーを引くことで、PCをドックに固定することができる。

あとは別で用意した液晶ディスプレイとドックをケーブルでつなげば、グラフィックボードの性能を100%引き出すことができるハイパフォーマンスのゲーミング環境が出来上がる。ドッキング時は本体のディスプレイはOFFになるため、液晶ディスプレイは必須だ。タワー型デスクトップPCのようなイメージに近い。ドックには大型スピーカーを搭載しているので、サウンド面も強化できる。

●前代未聞のゲーミングモンスターノートPC「GT80 2QE Titan SLI」

「GS30 2M Shadow+G-Dock」が変わり種とするなら、まさに“モンスター”と呼ぶにふさわしいのが「GT80 2QE Titan SLI」。世界初のメカニカルキーボードを搭載したノートPCとして話題になったこちらのマシンは、スペックも価格も上の上で、コアゲーマーにターゲットを絞り込んだ“尖った”製品に仕上がっている。

デスクトップPCで用いることが多いメカニカルキーボードは、打感の良さや指にかかる負担の少なさ、耐久性の高さなどが魅力の高品質のキーボード。しかし、なぜわざわざノートPCに搭載する必要があったのだろうか。谷口氏はその需要はゲーマーにとって「とても高い」と語る。「スピードや正確性を重視するゲーマーにとっては、キーボードの質はきわめて重要な問題。同時に認識できるキーの数が、一般的なメンブレン式より多いこともメカニカルならではのメリットだ」と、その恩恵を解説してくれた。

開発部のワン・ウィニー氏も、プロゲーマーが集まるイベントや大会をサポートしていて、メカニカルキーボードの需要はひしひしと感じていたそうだ。「プロはノートPCでゲームをする際にも、必ずメカニカルキーボードを別で用意している。なんとかしてこれを合わせることができないかと考えた結果、誕生したのがこのモンスターPCだ」と、開発の発端にメカニカルキーボードとノートPCを融合させたいという思いがあったことを明かした。

ちなみに、キーボード部分の下には他のパーツは搭載されておらず、PCの頭脳となる主要なパーツはすべて、キーボードとディスプレイの間の領域に収まっている。少々、いびつに感じる見た目には、並々ならぬキーボードへのこだわりがあるのだ。

どうせメカニカルキーボードを採用するのならということで、ノートPCではほとんどお目にかからないテンキーを搭載している。しかも、スイッチ一つでタッチパッドと切り替わるギミックも備えている。

GPUには、ノートPC向けではハイエンドモデルの「NVIDIA GeForce GTX 980M」を採用。しかも、これを2枚搭載するSLI構成にすることで、従来のゲーミングノートPCを上回る圧倒的な描写を実現した。パフォーマンス性能は、キーボード左上のボタンで、「Sport」「Comfort」「Green」の3モードを切り替えて、GPUの稼働を制御・調整する。冷却ファンも同様の仕組みで調整でき、高効率のデュアル冷却システムをフル稼働させれば、CPU温度を8~10℃、GPU温度を4~5℃下げることができる。

CPUは4コア8スレッド対応のCore i7-4720HQ、メモリ容量は16GB、ストレージ容量は128GBのM.2対応SATA SSD×4を、データ処理速度を高速化できるRAID 0で構成。ゲーミングノートPCの限界に挑戦したハイスペックPCに仕上がっている。

●日本にPCゲームのビックウェーブが到来! ユーザーはますます増える?

これらのニッチなターゲットに的を絞ったPCが日本でも販売されるようになった背景には、日本市場におけるPCゲームの盛り上がりがある。実は、今回、話を聞いた谷口氏は元プロゲーマー。遠征に赴いていた海外と比較すると、まだ小さなブームだが、着実にPCゲームの人気は広がりつつあるという。MSIも、スポンサーをしている日本のプロゲーマーチームを使って、店頭でイベントを開催し、普及に力を入れており、ファンがプロゲーマーに挑戦し、勝てば景品がもらえる参加型の交流会なども実施している。

任天堂やソニーなど、家庭用ゲーム機の地盤が強い日本は、PCゲームにおいては後発国だが、確実にユーザーは増加している。日本人プロゲーマーのレベルも上がってきており、海外の優勝賞金が500万ドル(5億円)と高額な大会を狙うチームも出てきているとのことだった。

2015年5月には、世界最大のプレイヤー数を誇るチームストラテジーゲーム「League of Legends(LoL)」の日本サービスが正式にスタートすることが決定している。ゲーミングデバイスを販売するメーカーは、この機会に大きな期待を寄せている。MSIもこれまでPCゲームにタッチしてこなかったユーザーに積極的にアプローチをしていく考えで、オンライン/オフラインを問わず、誰もが楽しめるイベントの開催を予定している。ますます過熱するPCゲーム市場から、今年は目が離せなくなりそうだ。(BCNランキング・大蔵 大輔)