舞台『孤島の鬼』より。鯨井康介、藤森陽太、崎山つばさ 舞台『孤島の鬼』より。鯨井康介、藤森陽太、崎山つばさ

藤森陽太、鯨井康介、崎山つばさ出演の舞台『孤島の鬼』が4月22日に開幕した。『黄金仮面』『少年探偵団』『蝶々殺人事件』に続く昭和文学演劇集第四弾で、江戸川乱歩の長編小説を、石井幸一脚本、西沢栄治演出で舞台化したものだ。公演初日を前に、ゲネプロが行われた。

舞台『孤島の鬼』チケット情報

30歳にもならずして髪がすべて白くなっている青年、蓑浦。彼は、自らの総白髪の原因となった、恐怖の体験を語り始める――。タイピストの女性・初代と恋に落ちた蓑浦だったが、ある日、初代は何者かに殺害されてしまう。悲嘆に暮れる蓑浦の前に現れたのは、かつて彼への思いを告白した医学生の諸戸だった。蓑浦、諸戸、事件を担当する北川刑事、探偵業を営む友人・深山木はそれぞれ、この事件の真相に迫ろうとするが、事態は思いがけない方向へと転がっていく。

語り部として、事件を振り返る現在の蓑浦=「私」を演じたのは、崎山。終始、作品の中心に立ち、回想の中の登場人物達とも会話し触れ合う難役を、崎山は確かな存在感と明瞭な台詞回しでこなしてみせた。その回想に登場する若き蓑浦役には、藤森。大変な事件に巻き込まれているとも知らず、恋人を救うために奔走する若者を、瑞々しく演じた。諸戸役には鯨井。事件のキーパーソンとも言うべき人物を、陰影に富む知的な雰囲気で造形した。蓑浦が出会う運命の女性ふたり、初代と秀の2役を体当たりで演じた逢沢凛の熱演も特筆したい。総じて、若いキャストばかりとは思えない、見応えある舞台となっていた。

得体の知れなさ・おどろおどろしさが蠢く乱歩独特の世界観を匂わせながら、ある種、清浄な幻想美があふれたのも、この舞台の特長だ。ホルマリン漬けの瓶が並ぶ棚からなる美術は妖しい光を放ち、白地に赤い花の柄があしらわれた衣裳は血や痣を連想させる。そんな中、細やかでアイデア豊かな西沢栄治演出は、グロテスク一辺倒でもなく、耽美に溺れきってしまうこともなく、時にユーモアを交えながら、絶妙なバランスで人間ドラマを構築した。

衝撃的な物語に驚き、戦慄しつつ、気がつけば不思議な感動すらおぼえる『孤島の鬼』。人間とは、愛とは何かを考えさせてくれる、珠玉の舞台に、観る者は引き込まれずにはいられないだろう。公演は5月4日(月・祝)まで東京・赤坂RED/THEATERにて。

取材・文:高橋彩子