大久保満寿役の美村里江

 各地で士族たちの反乱が勃発する中、政府の中枢で活躍する大久保利通(瑛太)の家族にも危険が及び始める。難を逃れるため、鹿児島で暮らしていた妻の満寿は、ついに子どもたちを連れて東京へ。だが、東京には大久保との間に息子・達熊をもうけた元芸妓・ゆう(内田有紀)がいた…。物語が緊迫の度合いを増す中、第44回では懸案だった大久保の家族の問題がユニークな形で山場を迎えた。薩摩時代から大久保を支えてきた満寿を演じる美村里江が、これまでの撮影を振り返ってくれた。

-第44回、東京にやって来た満寿は、ついにゆうと対面しました。

 内田さんも私も「何を話すのかな?」と、とても楽しみにしていたんです。女同士の本音のぶつかり合いは、中園(ミホ/脚本家)さんの得意とされるところ(笑)。どんな台本になるのか楽しみに待っていたら、意外にも何を話したのか明らかにしないという展開。本妻対愛人として思い切りやり合いたかった気持ちもありますが、中身をつまびらかにしないことで、大久保さんに謎のプレッシャーがかかるというのも面白かったです(笑)。

-これまで大久保の妻として満寿を演じてきた印象は?

 大久保夫妻に対する私の印象は「器用になりたい不器用な人たち」。2人ともどんどん変化していけばいいと考えているけど、その実、なかなか変わることができない不器用な面がある。大久保さんは立場も変わったし、ひげを生やして洋服を着たりしているけど、その本質は変わっていない。昔ながらの嫁として大久保家を守ることを考え、ゆうとの対面を避けてきた満寿からも、現状を維持しようとする意識がうかがえます。そういうふうに、先進的に見えて保守的なところがある者同士の2人だったから、夫婦でいられたのではないかなと。どちらかが器用に変わっていったら、夫婦の関係を続けるのは難しかったのではないでしょうか。

-満寿は大久保をどんなふうに見ていたのでしょうか。

 その点で、印象に残っているのが第20回です。「なぜ、自分は吉之助のようにできないのか」と嘆く大久保さんに、ほほ笑みながら歩み寄り「あなたは西郷吉之助さまになりたいのですか?私はそのままのあなたがいい」と告げる場面がありました。満寿としては、「ようやく本当のことを話してくれた」といううれしさがあると同時に、「ほんのこて情けなかなあ」とも思っている。だけど、それは悪い意味での「情けない」ではなく、「しょうがないわねぇ」と、大久保の全てを抱え込もうとする思いが込められている。それこそ本当の愛情ですよね。

-2人の夫婦愛を示す印象的な場面でした。

 ただ、そのときは、まだ大久保さんの全てを受けとめる器としては、満寿自身も不足していて、一生懸命大きくしていきたいという気持ちだったと思います。そして、周りからどんなに「変わった」と言われても、その内側にある、少し臆病で、西郷さんのようになりたいと思っている大久保さんから、自分だけは目をそらさないでいようと。それが妻としての矜持(きょうじ)であり、西郷さんとは別の意味で、一番近くで見守ってきた人間の強さではないかと。

-満寿を演じる上で、心掛けたことは?

 なるべく手際よく振る舞うことです。不器用というのは性格的な意味合いに過ぎません。初登場のとき、囲碁を打つ場面もあったように、日常的なことに関して満寿は、二手、三手先を考えて動ける人。大久保さんのスピードと切れ者感にも付いていける人でなければいけませんし。今もよく覚えているのが、何も言われないのに大久保さんの考えを察して、お漬物を手に「お父さまのところにあいさつに行ってきます」と出掛けて行った場面(第17回)。ものすごい速さでお漬物を包んで、さっさと出ていくんです(笑)。あそこは映像的に少しうそをついていて、普通だったら有り得ないスピード。だけど、満寿ならできるかも…と思える。そういう面白いキャラクターでしたね。

-あの場面は満寿の人柄がよく表れていました。

 ありがとうございます。実は、あの場面が私の撮影初日だったんです。その手際の良さが、満寿のキャラクターにピッタリかみ合っていたので、すぐに役をつかむことができました。おかげで、その後に撮影した嫁入りが決まる場面も自然と心が入りました。

-満寿は西郷家に出入りすることも多かったですが、鈴木亮平さんの印象は?

 撮影前、私が鏡の前で支度をしていると、鈴木さんが近づいてきて「満寿どん、調子はどないでごわすか?」と笑顔で声を掛けてくださるんです。ものすごい安心感がありますよね。しかも、それを私だけでなく毎回、みんなにやってくれる。当たり前のように見えますが、自分も疲れていたり、役のことで悩んだりすることもある中、あそこまでできる人はなかなかいません。すごい座長だな…と。しかも、紳士的で気遣いのできる鈴木さん自身のパーソナリティーに、西郷さんが持つ“情の厚さ”みたいなものが加わり、どんどんすてきな笑顔で迎えてくれるようになって…。長い間、同じ役に携わってきたからこそにじみ出る“厚み”のようなものを感じました。

-これまで満寿を演じてきて印象に残ったことは?

 恐らく、最後まで自主的に時間を設けて薩摩ことば指導を受けていたのは、私だけだったのではないでしょうか(笑)。私自身、役に立つ勉強が大好きなので、個別にお時間を頂けて大変ありがたかったと感謝しています。策士の旦那さんがたじたじになるぐらい頭の回転が早い人なので、しゃべりの滑らかさは大事にしたかったんです。

-満寿のキャラクターを表現する上で、薩摩ことばにも気を使われたと?

 そうですね。先生もいろいろと考えてくださり、男女の違いだけでなく、女性の中でもキャラクターとお芝居を考えてニュアンスを変えてくださいました。例えば、やや活発な感じの琴(桜庭ななみ)や糸(黒木華)に対して、貫禄がある満寿はイントネーションを緩やかにしてみたり…。そういうところからお芝居のヒントを頂くこともありました。それは今までにない感覚だったので、言葉には本当に助けられました。「薩摩ことばが大変」という声も現場でちらほら聞きましたが、私はとても楽しくやらせていただきました。たくさん練習もしたので、いい思い出になりました(笑)。

(取材・文/井上健一)