――自分のつらい気持ちを言葉にできないのは、すごくストレスですよね。小さな子どもがふさぎ込んでしまうのって、相当なストレスだったのだと思います。その後、自然と幼稚園をやめる流れになっていったのですか?

 k「夫と相談し、1週間くらいゆっくり休ませて、また休み休み通わせて一からやって行こうと思っていたんですが、また幼稚園に行っても、早く帰りたがったり、他の園児たちの手前もあり、幼稚園側にも影響を与えてしまっていることでいづらくなってきました。

幼稚園をやめる決心が本当の意味でついたのは、川遊びの行事の後ですね。たけるも楽しみにしていた行事だったのですが、全校生徒参加の大規模なもので、やはりどうしても行けなかったんです。

その日の午後、私とたけるだけで、川に行ったんです。午前中までは大勢の子どもたちがいた場所で、誰もいなくなってもまだその余韻が残っているような気がしました。

その時に、その子たちが歩んでいく道と、私たちが選ぼうとしている道は違うんだなあ、という実感がしみじみこみ上げてきて。そこで二人だけの川遊びをしたことで、自分の中で気持ちの切り替えができたと思います。

その後、私の覚悟が決まってからは早かったですね」

ホームスクーリングという選択

虫が大好きなたけるくん

――たけるくんは、小学校にも一度も通ったことがないんですよね。

k「はい、小学校に行かないことについては、義務教育を受けさせなくてもいいのか、という不安がありましたが、夫が取り寄せてくれた本『子どもは家庭でじゅうぶん育つ―不登校、ホームエデュケーションと出会う』で、義務教育の本当の意味を初めて知り、これだって思いましたね」

――本当の意味?

k「少し引用すると、

義務教育の『義務』は、子どもの学ぶ権利を保障するおとなの側の義務の意味であって、子どもが学校に行く義務ではありません。
親の就学義務も、子どもの学ぶ権利を親として援助する義務であり、登校を強制することが子どもの心を傷つけるような場合に、むりやり学校へ行かせる義務ではありません。

出典『子どもは家庭でじゅうぶん育つ―不登校、ホームエデュケーションと出会う

という文なのですが、つまり、子どもが学校に行かないという意志選択をすることは法律違反にはならないってことなんですよ」

――本当ですか! それは知らない人は多いのではないでしょうか。

k「私もそうだったので、これを知ってすごく解放された気分になりました」

たけるくんの成長

ヤモリを孵化させる

――幼稚園をやめて、家で過ごすようになってからのたけるくんの変化はどのように感じられましたか?

k「身体の症状はすぐになくなりましたね。川遊びに行った夜に、たけるとは話をしたんですが、その時にやめるって決まった瞬間から、元気いっぱいですよ」

――わかりやすいですね!(笑) その後、どのように過ごされたか、教えてもらえますか?

k「7歳くらいの時から、すごく外出を嫌がるようになったんですね。きっかけはおそらく、スーパーで買い物中に、すれ違いざま、知らない人にほっぺたを触られるという事件がありまして」

――えー、それって怖いですね。子どもとはいえ、痴漢と同じじゃないですか!

k「そうなんですよ。敏感なたけるにとってはトラウマですよね。それで“ママだけじゃ安全が足りない“って言って、パパも一緒に買い物に行くことになったんです。店内では、カートとカートを押す私の間に入って移動するんですが、すごく歩きづらくて(笑)」

――でも、その頃にはちゃんと自分の言葉で要求を言えるようになっていたんですね。

k「そうですね。買い物は週に1回、数日前までに言わないと行かないと言って。たけるは当時、自分のことを、“脱皮中”と言っていました」

――脱皮?

k「“今、自分は脱皮してるから“って。脱皮の時って、すごく危険っていうもんねって話をして」

――へえー、自分の言葉をすでに持っているんですね。

k「今はその時期を過ぎて、活動的になってきています。ブログを始めたり、工作や絵画など、色んなことに興味を持っています。毎日が楽しそうで、ワクワク感がこちらにまで伝わってきます。

夫が時々、たけると話をして驚くと言っていたのは、彼が自分の意志をしっかりと持っているということなんだそうです。言葉や情報をインターネットから吸収するスピードの速さと、それを確実に自分のものにしていっているんですよね。

HSCについても、私たちに、子どもの立場で詳しく教えてくれます」

――ところで、koko kakuさん自身は、たけるくんが学校に行かないことを不安に思ったことはないのでしょうか。

k「ふと心配になって“大きくなってから、もっと強く学校に行きなさいとか勉強しなさいとか言ってほしかったとか言わない?”と聞いたことがあります。たけるは怒った顔をして、強い口調ではっきりと言いました。“はぁ? 自分で決めたんだぞ!“って」

――たけるくんに一切、迷いがないのが、素晴らしいですね。ちゃんと自分で自分の人生を選んできた自信から出た言葉なのですね。