2画面ノートPC「TAICHI」

ノートPCの液晶ディスプレイ部分が回転し、ノートPCにもタブレット端末にもなる変形ノートPC――。これをASUSTeK Computer(ASUS)が開発すると天板にもディスプレイを備えた新しいタイプの2画面PC「TAICHI」になった。

2012年2月、「TAICHI」は法人向けとして販売したが、2年後の14年2月、満を持して一般ユーザー向けのノートPCとして発売された。“2画面”というと作業領域を広げるため、ディスプレイを横に並べるのが一般的だが、「TAICHI」は天板にディスプレイを備えた“表裏ディスプレイ”スタイルだ。

天板にあるディスプレイは当然、ユーザーがノートPCとして使っているとき、天板側のディスプレイを見ることができない。ではなぜ、表裏2画面のノートPCが生まれたのだろうか。ASUS JAPANの担当者に話を聞いた。

●新しいPCのスタイルを生み出したい

「TAICHI」の開発が始まった11年当時、インテルが提唱する薄くて性能が高いウルトラブックが産声を上げた。ASUSも業界に先駆け、11年11月にウルトラブック「ZENBOOK」を発売。薄くて軽く、しかも起動が速く、いつでもインターネットにつながる……そんなモバイル性能の高さが評判になり、人気を博した。

この頃、液晶ディスプレイが回転してタブレット端末のような一枚板になるウルトラブックも流行し始めた。液晶が180°回転し、液晶を裏返して畳むことができるモデルや、液晶が360°開き、底面と天板がくっついて一枚になるモデルなど、さまざまなタイプが登場している。

「TAICHI」はそんな変形PCの一種なのだろうか。マーケットを担当するシステムプロダクトマーケティング シニアマーケティングの福島美保スペシャリストは、「11年に発売したウルトラブックの『ZENBOOK』は大変人気が出た。でも、ウルトラブックに限らず、PCは一人で画面を見る“パーソナルなコンピューター”。ASUSはここから一歩先に行きたい、新しいカテゴリのPCを創りたいと思った。それが同時に複数人で使えるPC『TAICHI』だ」と話す。

「TAICHI」は、メインディスプレイと同サイズのタッチ対応ディスプレイを天板に備えている。デュアルディスプレイモードと同じく、同じ画面を表示する「ミラーモード」、それぞれに異なる画面を表示する「デュアルスクリーンモード」に切り替えることができる。

例えば、「ミラーモード」で対面の人に画面を見せながらプレゼンテーションを行ったり、「デュアルスクリーンモード」で、PC作業をしている間に子どもにウェブ動画を見せたり、といった使い方ができる。さらには、メイン画面だけ、天板ディスプレイだけを表示することも可能だ。この切り替えはキーボードに搭載した専用の「TAICHI」ボタンで行うことができる。

この表裏2画面を実現するには、どのような苦労があったのだろうか。開発を担当したプロダクトマネージメント テクニカルプロダクトの西康宏シニアマネージャーは、「二つの画面をくっつけるのが難しかった。2枚のディスプレイを重ねるので、当然厚くなってしまうし、二つの画面表示をコントロールするコントロールチップも必要。なるべくコントロールチップを薄くし、また二つのディスプレイから出る熱を効率的に放熱する工夫が大変だった」と振り返る。

放熱のための排出口は、ディスプレイとキーボードの接続部分に設けた。「デザイン的に、あるいはパームレストが熱くなることを避けるために、本体のサイドに排出口を設けたくなかった」と西シニアマネージャーは話す。

●「Eee PC」を生み出したASUS 常に挑み続ける

そもそも、ASUSはいまではPCメーカーとして知られているが、そもそもはマザーボードのメーカーだ。4人のエンジニアが創業したベンチャー企業としてスタートしたASUSは、エンジニアならではの高い技術力にこだわった開発を続けてきた。いまではマザーボードの市場で、世界一のシェアを誇る。日本国内市場でも支持率は高く、家電量販店の実売データを集計する「BCNランキング」をもとに、カテゴリ別で年間販売台数1位のメーカーを表彰する「BCN AWARD」では、マザーボード部門で10年連続で受賞している。

ノートPC分野では、2008年に“ネットブック”の先駆けとなるモバイルPC「Eee PC」を発売。爆発的な人気となり、ネットブック市場が急激に拡大する原動力となった。「BCN AWARD」でも「ネットブック部門」が新設され、ASUSは「BCN AWARD 2010」「BCN AWARD 2011」のネットブック部門を2年連続で受賞している。

いまでもASUSは新しいムーブメントの創造に力を入れている。『挑め。想像を超えたその先へ。』をスローガンに、新たな挑戦に取り組み続けているASUS。最近では、Windows 8とAndroidのデュアルOSを採用した「Transformer Book」を生み出した。なかでも日本では販売していないが、「Transformer Book V」は、ディスプレイ部とキーボード部分が着脱できるだけではなく、ディスプレイの背面にスマートフォンをドッキングするスロットを備えている。

キーボードをつなげてノートPCとして、ディスプレイ部分でAndroidタブレットとして、またスマートフォンをドッキングして大画面を利用できるスマートフォンとして使うことができる。

だれも想像できないようなデバイスを生み出し続けるASUS。この先、どんな“尖った”製品を生み出すか実に楽しみだ。(BCN・山下彰子)

*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割をカバーしています。