【音楽】孤高の詩人・双葉双一が奏でる『現世の神話』

ボブ・ディラン直系のフォークシンガー、双葉双一。まるで70年代の少女漫画から飛び出したような独自の世界を持つ彼の孤高の正体に迫ります。

「誰にしたって本当の恋は決して決して決して叶えられっこないんだ」
という、あまりに繊細で、あまりに真理に満ちた、ロマンチックでいじわるなこのフレーズが大好きだ。ボブ・ディラン直系のフォークシンガーである双葉双一というひとは、そのフォロワーから大きく外れ、様式美をとことんまで追求し、誰の手も届かないところで歌をうたう、孤高の詩人。象牙のような肌と、華奢なからだ、うつろで切れ長の瞳、肩まで伸びた髪の毛…まるで70年代の少女漫画の世界から飛び出したようなルックスに舌足らずな甘い声、目の動きや指先、計算され尽くしたまるでムダのない一挙手一投足で、独自の世界を表現する。元ゆらゆら帝国の坂本慎太郎氏が支持する、というのもうなづける、夢なのか、現なのか、存在そのものがアシッドさを体現する稀有なアーティストだ。 

最初に彼をみたのは、10年以上前、京都のコーヒーハウス拾得。日本の音楽の歴史を根底から支える老舗のライブハウス。ステージに立って間もない20歳そこそこのフォークシンガーその類稀なる才能の話は、遥か東京まで轟いた。噂を聞きつけてさっそく京都に足を運び、ステージで演奏する彼を見るや否や、そのただ事ではないオーラにこころを射抜かれてしまった。クラシックギターを魔術のようにあやつり、ハーモニカを奏で、まるでこの世の俗を寄せ付けないかのようにデリケートなバリアをまとって詩を節にのせ歌にする。その佇まいに丸山明宏を連想した。当時、唯一リリースされていた音源はカセットの宅録シリーズ。彼が自ら録音しただけのそれは、カセットならではのやわらかい音の質感や一発録りの緊張感、どれもが彼の音楽性に寄り添っていて完璧だった。1stアルバムを制作するにあたって、デモテープを聴いたピースミュージックの中村宗一郎さんが、スタジオ録音を回避しカセット音源をそのままマスタリングする、という荒業に出たというエピソードがその録音物の素晴らしさを物語っている。と同時に、いかに双葉双一の音楽を録音物で表現すべきか、その難しさをもあわらしていると言える。彼の音楽は録音との格闘だ。音だけでない、神がかり的なムードを、一度の弾き語りで封じ込めなければいけない。

   












先日リリースされた双葉双一の、2年半ぶり6作目の新作。ピアノ弾き語り「星はただの点」で激情のヴォーカリゼイションを披露したり、「懺悔喫茶にて」でゾッとするような冷酷さをあらわにしたり、「あそぼうよ」でいつもの双葉節を取り戻したり、「冬奏曲」でとてつもない優しさを音にしたり、愛や、喜びや、風刺を盤に封じ込めて、この作品で彼は血を流している。録音にはヴィンテージのマイクや、アナログテープ、GIBSON J200のギター(『ナッシュビル・スカイライン』のジャケットでボブ・ティランが手にしているもの)が用意されたという。SP時代の録音物を思わせる音のあたたかみ、色っぽさ、躍動感や生命力が、確かに感じられる。再現性とは違い、彼のために空間をとらえた鳴り方で、音楽が響いてくる。だからなのか、この作品は幻想的でありながらグロテスクで生々しい。『現世の神話 1』と名付けられたそれは、15篇の詩に音楽をつけた、わらべうたのようであり民謡のようであり、フォークソングでありクラシックであり、美しい歌のサントラ集。ユーモアがあって、ちょっと皮肉やさんで、意地が悪くてロマンティックで、綺麗なものしか知らない青年の残酷な血の物語。この作品には双葉双一の血がどくどくと流れている。それはまるで、彼が次なるステージへ歩んでいくための痛みにすら思えるのだ。


【公演情報】
4月8日(日)落合SOUP
出演:知久寿焼/沢田ナオヤ/双葉双一
開場:17:30    開演:18:00頃
料金2,000円 

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