新国立劇場オペラ「椿姫」 撮影:寺司 正彦/提供:新国立劇場 新国立劇場オペラ「椿姫」 撮影:寺司 正彦/提供:新国立劇場

数あるイタリア・オペラの中でも一二を争う人気作《椿姫》に、またひとつ名舞台が加わった。5月10日、新国立劇場の新演出《椿姫》の初日が幕を開け、洗練されたシンプルな演出とクォリティ高い演奏が揃った舞台に、満員の聴衆が大きな拍手を贈った。

新国立劇場オペラ「椿姫」のチケット情報

演出は日本初登場のフランス人演出家ヴァンサン・ブサール。写実的な装置は最小限に抑えられている。第一幕や第二幕第2場の華やかなパーティ・シーンでは、リアルで豪奢なシャンデリアと、書き割りの背景という対照が印象的(二幕の屋台崩しはスペクタクル!)。抽象的な舞台ながら、奇抜ではなく十分に説得力があり、しかも美しい。下手側にそびえる巨大な鏡の壁は、舞台に奥行きを与えるとともに、正面を向いて歌う歌手の背中や横顔を同時に見るという、ちょっと不思議な感覚も体験させてくれる。

鏡とともに常に舞台上に置かれているのがピアノ。パーティ・テーブル、書き机、ポーカー台とさまざまに用いられる。台本にはない設定だが、原作のデュマ・フィスの『椿姫』には主人公マルグリットがピアノを弾く場面が描かれているし、さらにそのモデルである実在の高級娼婦マリー・デュプレシはフランツ・リストとも浮き名を流していた。幕開けに映し出されるモンマルトル墓地のデュプレシの墓碑銘とともに、登場人物としてのヴィオレッタだけを描いているのではないというメッセージが感じられる。

ヴィオレッタが息をひきとる第三幕。天井から長く垂らされた幾重もの紗幕は、幻想的な照明を映すスクリーンでもあるが、それ以上の意味を持っている。再会したヴィオレッタを抱きしめるアルフレードだが、ふたりの間に常に挟まっているのがこの薄い紗幕。現実の出来事ではないことを示す象徴のようでもある。もしかしたらアルフレードはヴィオレッタの臨終に間に合わなかったのかもしれない。

尻上がりに調子を上げて迫真のヴィオレッタを演じたベルナルダ・ボブロ、まさに今が旬の美声で魅せたアントニオ・ポーリを始めとする歌手陣や、それにぴたりと寄り添いながらオーケストラから陰影豊かな音楽を引き出したイヴ・アベルの巧みな棒さばきなど、演奏も高水準。大満足の新制作初日となった。

なお、休憩は幕ごとではなく、第二幕の第1場と第2場の間に1回とられていて、全体を大きな二部構成のように見せている。新国立劇場の《椿姫》は5月26日(火)まで、全6公演が上演される。

文:宮本明


◆新国立劇場オペラ「椿姫」
5/10(日) 14:00開演
5/13(水) 14:00開演
5/16(土) 14:00開演
5/19(火) 19:00開演
5/23(土) 14:00開演 ★ぴあスペシャルデー
5/26(火) 14:00開演
新国立劇場 オペラパレス(東京都)

★ぴあスペシャルデー:ぴあ貸切公演。プレイガイドでのチケット販売はチケットぴあのみ。