テリー・ギリアム監督

『未来世紀ブラジル』『12モンキーズ』のテリー・ギリアム監督の最新作『ゼロの未来』を完成させた。プロモーションのために来日したギリアム監督は、最新作では“本当の幸福”について描いたと語る。

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ギリアム監督は伝説のコメディ集団“モンティ・パイソン”のメンバーとして活躍し、先の2作のほか『バンデットQ』『フィッシャー・キング』『ブラザーズ・グリム』など独創的な映画を次々に発表。世界各国に熱狂的なファンがいる映画作家だ。本作では、荒廃した教会にひきこもって謎めいた数式“ゼロ”の解明に励む天才プログラマーが、魅力的な女性と“ゼロ”の秘密を知る青年に出会い、人生が大きく変化していく様が描かれる。

本作も傑作『未来世紀ブラジル』同様、近未来が舞台だが、ギリアム監督は現代はさらに“ブラジル化”しているという。「ネットが普及したのは大きな変化だけど、いまだにテロはあるし、人々はいまだに国家が力を持っているという“フリ”を続けている。我々はこれだけの脅威にさらされているんだから、安全のためにはもっと国家に監視してもらわないとダメだ!ってわけだ。大きな変化は、社会を動かしているのが、国や政府や政治家ではなくて“企業”ということをみんながわかってきたことだと思う。企業が楽しいものを提供することで、ユーザーは何も考えなくなるんだ。彼らは仕事すら楽しいと感じさせようとしているんだよ」

そんな世界でコーエンは、人と関わるのを拒み、誰もいない教会で“人生の意味”を教えてくれる電話がかかってくるのを待ちながら、謎の数式“ゼロ”の解明に挑んでいる。「映画の中ではあちこちに広告が出てきて『あれを買え、これを買え』と言ってくるし(笑)、コーエンは幸福になれる電話をただ待っている。コーエンはとても現代人の典型だと思う。電話を待っている間に“現在”を生きることを忘れてしまっているんだ。そうじゃないんだ。世の中には説明できないけれども、経験しないとわからないことや、相手から得られる幸福がある。この映画はそのことに言及した作品だと思うよ」。

「多くの人が歩いている方向と違う方向に歩いていくのが私という人間なんだ」と豪快に笑うギリアム監督は、「今後も新作を作り続けていきたい」と語る。「私の作品を気に入ってくれる人は多数派じゃないかもしれないけど、確実に存在しているんだ。だからそういう人たちに向けてこれからも作り続けていきたいし、これからも自分のやり方を変えないよ」

『ゼロの未来』
5月16日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMA、新宿武蔵野館ほかにてロードショー