待望の国内での出版も!

国内外で大反響を呼ぶが、本人はこう受け止めている。

「最初に海外で賞を受賞して話題となって、そのあとに日本でもメディアで取り上げられるようになったので、僕の中では完全に逆輸入といった感覚があります(笑)。海外ではわりと大人のアートブック、もしくは本というよりオリエンタル・アート作品のような受け止められかたをしたのに対して、日本では子供向けの絵本や仕掛け絵本として取り上げられたのも面白かったです。幅広い世代の人に受け入れてもらえる可能性があることを感じられたのはすごくうれしかった」

現在は残念ながらデータでの販売のみ。ただ、今後、正式に本としての出版販売も視野に入れているそうだ。

「おかげさまで興味をもってくださるところがあって。近くいい報告ができればなぁと思います」


子供も楽しめること間違いなしの「単位展」

一方で大野さんは5月31日まで開催されている「単位展 あれくらい それくらい どれくらい?」にも参加している。

この「単位展」は、長さを測るメートルや重さを量るグラム、時間を量る秒など、単位をテーマにした展覧会。普段の日常で何気なく使っているこれらの単位を、あるモノに置き換えて考えてみたり、あるモノで表現してみたり、と体感することで実感できるさまざまな展示作品がならぶ。目で見て楽しめるものもあれば、実際に身をもって感じられるもの、自分の想像力を試されるものもあって、大人はもちろん子供もぜひとも触れてほしい“単位と遊ぶ”プログラムになっている。きっと、そのユニークな展示の数々を見たら、単位の見方が、世界の見え方が変わるに違いない。この企画展への経緯を大野さんはこう語る。

「今回の展示は、同じ年のグラフィック・デザイナー、岡本健さんとの共同作品になります。岡本さんと出会ったのは、共通の友人の結婚式のウェルカムボード作りでのこと。僕がレーザーカッターを使える、岡本さんがグラフィック・デザイナーということで、知人に頼まれたんです。その打ち合わせのとき、文字の話になって意気投合したというか。たとえば“英語より日本語の方が重く見えるよね”といった文字の話で盛り上がった。後日、岡本さんのところにある雑誌の付録のオファーがきたとき、“一緒にやってみませんか?”と声をかけてくれて。それで、文字の面積を測って、濁点を1グラムとしたときに他の文字の重さがどうなるのかというのをグラフィックで表現した作品を制作したんです。この付録をベースに、岡本さんと新たに作ったのが今回の展示作品です」


ことばの“重さ”を量ってみました

岡本さんと大野さんの展示作品「ことば の おもみ」は実にユニーク。まず、天秤計があって、そこにたとえば“おもい”と“かるい”があって、どちらが重いのか示してある。また、それとは別に、大きなモニター画面と2つのIPADを用意。そのモニターにも天秤が表示され、ここにはIPADでそれぞれにことばが打ち込め、重さを比較できる仕組みになっている。
 

「来場してくださったみなさんが自由に重さを量れる形の展示ができないかなと思って、このような形になりました。たとえば“しごと”と“かてい”だったら、ちょっと“かてい”が重かったりします(笑)。こんなふうに気になることばを比較してみて、楽しんでもらえたらうれしいです」
 

この「ことば の おもみ」のほかにも、多種多様な単位の展示がずらり。趣向の凝らされた展示は、目と身体で楽しめると同時にちょっとためにもなる。ちなみに小学生以下は無料。ファミリーにもおすすめしたい。大野さんはこうメッセージを寄せる。

「僕としては“文字に重さを与える”という新しい比較の基準をと、新しい単位の提案ができたかなと思っています。ほかにもいろいろな展示があるので、ぜひ会場に足をお運びください」

また、今回のような異分野の人とのコラボレーションは今後も続けていきたいそうだ。

「異分野の人との交流はこれからも大切にしていきたい。まったく違う分野の人が組むことでまったく違うアウトプットで生まれる新たなプロジェクトが今後増えるような気がします。面白いことに、まったく違う業種の人が、同じコンピューターソフトを使っているのに、まったく違う使い方をしていたりするんです。そういう者同士がその技術を共有することで、面白いものが生まれたりするんじゃないかと思うことがあります。「360°Book」も、こういうひとつの新しい本の形ができたので、いろいろなコラボが可能ではないかと思っています。たとえば絵本作家の人と組んでみたり、ある名画を多角的に見える形にしたり。映画の有名なワンシーンを表現することもできるかもしれない」

「建築家として培ってきた技術を生かして、新しい価値のある新しいモノを生み出したい」と大野さん。話を聞いていると、アーティストであり、ものづくりのプロの職人にも感じられる。建築界から出現した異色のクリエイターである彼の作品世界にぜひ触れてみてほしい。

なお、「単位展」の関連プログラムとして21_21 DESIGN SIGHTで5月16日(土)14:00~15:30に「大野友資と華雪とギャラリートーク」(参加費無料 ※ただし、当日の入場券が必要)が行われる。興味のある人はぜひ。