撮影:増田 慶

「そこにいない人たち」が生む存在感

ちなみに重要なのはこの“吉岡が学校を去ってから”という部分で、部員たちは何かと言うと「吉岡先生から聞いたんだけど」「吉岡先生だって言ってたじゃん」と、彼女の不在をほのめかす台詞を発する。

実際にそこにいない人物のキャラクターを台詞だけで観客に想像させる、というのは平田の戯曲の特徴で、部員たちは吉岡の不在が痛手であると痛感しながらも、彼女の呪縛から逃れようと奮起する。吉岡と二人三脚で部員たちが研鑽を積んでゆく小説版、映画版と異なり、舞台版では演劇部内で起きたトラブルや難関は部員たちだけですべて解決しなければならない。それゆえに部員内で結束し困難を乗りこえてゆく様がより一層感動的に映る構造となっている。

また、劇中には事情により部活を休んでいる部員がふたりおり、彼女たちは途中まで話題には上っても実際には舞台上に登場しない。ここでも、不在とほのめかしによって観客に部員ふたりの存在を想像させるという平田脚本ならではの工夫がなされている。

撮影:増田 慶

演劇は戯曲や演出によっては、その場にいなくなった人物についての物語や、前後の時間、舞台の外側の空間ついても、観客に想像させることができる。平田は著書『演劇入門』の中でそのように書いているが、まさにその理論が実践されているという印象だ。特に舞台というフレームの外側にいながらも、舞台上の物語に甚大なる影響を与え続ける吉岡の存在は、そのことを改めて証明して見せている。

さて、肝心のももクロの演技はどうか。結論から言えば、初舞台にしてよくぞここまで仕上げてきたな、というのが率直な感想。特に、間(ま)の取り方を例に取るとその達者ぶりがよく分かる。