撮影:増田 慶

5人が伝える、静かで感動的なメッセージ

メッセージを伝えるために演劇を創っているわけではない、と平田は言う。平田は他の著作でも、単純な主義主張を伝えるのは、もはや芸術の仕事ではなく、混沌とした世界をダイレクトに描写することこそが自分の演劇である、と何度も書いている。

だが、『幕が上がる』には静かなメッセージが隠されているように思うし、少なくとも、ももクロの演技からはそれが伝わってきた。それはひとことで言えば、集団創作につきまとう苦悩と悦び、その尊さである。ここで言う集団創作では、ストレートに“演劇”と言い換えてしまってもよい。

舞台版『幕が上がる』は、高校生たちの成長を描いた物語だ。精神的に成長するという意味もあるし、劇中劇『銀河鉄道の夜』を通して、演技面で成長する過程もつぶさに描かれている。その過程で浮き彫りになるのは、集団でものを創ることの楽しさ、難しさ、悦び、苦しみだ。1、2年生の部員が休んで稽古が進まないこともあれば、有安杏果演じる中西がある理由により不調に陥ってしまうこともある。

それでも、台詞渡しをしながら、必死で互いの足りないところを補って創作に励む姿は、静かな感動を呼ぶ。だからこそ、これをきっかけに演劇に興味を持つ観客が増えるかもしれない、と思うのだ。平田自身、映画『幕が上がる』のインタビューで、次のように語っている。

撮影:増田 慶

<今回、2月28日公開に決めたのも、高校受験が終わった中学生に観ていただいて、一気に演劇部員を増やしたいというひとつの期待があったから。試写を観た方も「演劇をしたくなった」とおっしゃる方が多かった。大人でもそう思うんです。中高生が観たら、もう基本的に演劇がしたくなるようになっている。だからぜひ高校演劇を知らない方にもこの映画を観てほしいですね。>(ゲキ部!平田オリザインタビュー

音楽でも映画でも演劇でもいいが、人は作品から大きな衝撃を受けた時、それを観る前と観たあとで違う自分になってしまったような感覚に陥ることがある。ものの見方が変わったり、日常の景色が色づいて見えたり、あるいは自分でも何か表現してみたくなったりもする。

「演劇をしたくなった」というのもそのひとつのあらわれだろうし、あるいは舞台版『幕が上がる』で演劇の洗礼を受けた観客が、他の劇場にも足を運ぶこともあるかもしれない。本作に隠された、押しつけではないメッセージはそのような行動を促すだけの力が実際にある、と思うのだ。

撮影:増田 慶

舞台「幕が上がる」
日程:2015年5月1日 (金) ~2015年5月24日 (日)
会場:Zeppブルーシアター六本木

千秋楽ライブ・ビューイング
2015年5月24日(日)18:00開演