東出昌大がカズオ・イシグロ原作の公演で初舞台

2015.5.19 11:50配信
舞台『夜想曲集』 舞台『夜想曲集』

『日の名残り』『わたしを離さないで』などで知られる英国の作家カズオ・イシグロが、2009年に発表した初の短編集『夜想曲集』。この中から「老歌手」「夜想曲」「チェリスト」の3編を選んで1本の戯曲に再構築した同名の舞台が東京・天王洲 銀河劇場で上演中だ。主人公の旧共産圏出身の青年ヤンを演じるのは、連続テレビ小説「ごちそうさん」でブレイクし、現在はNHK大河ドラマ「花燃ゆ」にも出演中の東出昌大。安田成美や近藤芳正、中嶋しゅうといった共演のベテラン勢に支えられ、初舞台ならではの瑞々しい姿を見せている。

舞台『夜想曲集』チケット情報

旧共産圏からやってきた無名のチェリスト・ヤン(東出)は、ベネツィアの広場でアメリカの往年の歌手トニー・ガードナー(中嶋)と出会う。今夜ゴンドラから妻のリンディ(安田)にセレナーデを歌う予定だと言うガードナーに、ギター伴奏の役目を買ってでるヤン。幸運な出会いから、一度は手放したはずの“自分の音楽”に再び向き合おうとするヤンの脳内に、以前レッスンを受けた女性エロイーズ(渚あき)との記憶がよみがえる。その光景に、リンディとサックス奏者のスティーブン(近藤)が過ごした不思議な夜など、才能を持つ者と持たざる者との物語が交差していき…。

短い髪に簡素な白シャツでたたずむ東出は、いかにも純朴な青年といった風情。だが、ふと立ち止まって風に耳を澄ますシーンでは、“才能を持つ者”を表す、まっすぐで強い目力が印象的だ。さらにエロイーズから個人レッスンを受けるシーンは、昨年から実際にチェロの練習を重ねてきたというだけあって、楽器を抱えるポーズがピタリと決まっていた。またエロイーズとの哲学めいた会話のやりとりはまだ硬さが見られたものの、身のこなしの美しさは抜群。グレーの壁に白い家具、弱くゆらめくシャンデリアといった抑制されたセットと違和感なくなじみ、原作の静謐な空気を上手く伝えていた。

一方の、“才能もないのに有名であり続ける女”リンディと、“才能はあるのに売れない”スティーブンとの会話は赤裸々だ。ビバリーヒルズのホテルでたまたま隣り合ったふたりは、どちらも整形手術後の療養中で、顔にグルグルと包帯を巻いている。妻に逃げられ自棄になって手術を受けたスティーブンを演じる近藤の声音には自嘲がにじむが、進んで手術を受けたらしいリンディ役の安田の声は、屈託なく可憐だ。最初はそんなリンディを毛嫌いしていたスティーブンだが、口論の末に彼女の本当の姿を知る過程が興味深い。

ベネツィア、ビバリーヒルズ、アドリア海沿いの小さな町と、物語は舞台を変え、それぞれの人生に通奏低音のようにチェロの音色を響かせながら展開してゆく。本と音楽を愛する人にこそ、観てほしい1本だ。

東京公演は5月24日(日)まで。その後、5月30日(土)・31日(日)大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティで上演。チケットは発売中。

取材・文 佐藤さくら

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