今週は、少女から大人へと成長した2人の女優が主演した映画を紹介しよう。
まずは、ゴシック小説の古典で“SFの祖”とも呼ばれる『フランケンシュタイン』を生み出したイギリスの女性作家メアリー・シェリーの波乱に満ちた半生を、エル・ファニング主演で映画化した『メアリーの総て』から。
19世紀初頭、小説家を夢見る少女メアリーは、妻子ある詩人パーシー・シェリーと出会い、駆け落ちをするが、乳児の娘を亡くすなど、さまざまな不幸に見舞われる。失意のシェリー夫妻を、詩人のバイロンが別荘に招待し、「皆で一つずつ怪奇談を書いて披露しよう」と持ち掛ける。
サウジアラビア出身のハイファ・アル=マンスール監督をはじめ、製作、脚本も皆女性。それ故、メアリーに共感を寄せながら、彼女の心情に焦点を当て、名作誕生の秘密を明らかにしていく。
そんな本作では、孤独、喪失、死、裏切りなどをキーワードに、メアリーが、ガルバニズム(生体電気)ショーに魅せられ、死者を蘇生させることに興味を持ったのは母と娘を失ったから、あるいは、男(夫)への幻滅や絶望感が怪物(自分)を生み出した科学者像に反映されていると推理するなど、興味深い考察がなされている。
そうしたメアリー像を、堂々たる演技で表現したエルは現在20歳。四つ年上の姉ダコタ・ファニングと共に子役として活躍した後、『マレフィセント』(14)のオーロラ姫役で美しく成長した姿を見せ、観客を驚かせた。
本作は、昨年、ソフィア・コッポラ監督の『The Beguiled ビガイルド/欲望のめざめ』(17)に続いて撮影されたので、エルは、主人公のメアリーとほぼ同い年でこの難役を演じたことになる。
エルは「今の世の中だからこそ、彼女の特別な物語をみんなに知ってもらうべきだと思った。だからこの役を絶対に演じたいと思った」と明かしている。
続いては『壬生義士伝』に続く浅田次郎原作の新選組外伝『輪違屋糸里 京女たちの幕末』。
幕末、壬生浪士組が新選組へと転化していくさまを、土方歳三(溝端淳平)を慕う京・島原輪違屋の天神・糸里(藤野涼子)、平山五郎(佐藤隆太)の恋人で桔梗屋天神の吉栄(松井玲奈)、芹澤鴨(塚本高史)の愛人・お梅(田畑智子)といった女性の視点から描く。
本作のクライマックスは、土方らによる、芹澤、平山の暗殺だが、それに協力した女性たちがいたというのは浅田流の新解釈。芹澤の屈折を巧みに表現した塚本と、本作の撮影当時は、まだ16歳だった藤野の熱演が印象に残る。
『ソロモンの偽証』二部作(15)でデビューした藤野涼子(芸名は同作で演じた役名から取られた)は、続く連続テレビ小説「ひよっこ」(17)でも注目を集め、本作(撮影は『ひよっこ』の前に行われた)が時代劇初挑戦となった。
両親や周囲から「古風な顔だから、かつらや着物が似合うのでは?」と言われ、自身も時代劇には興味を持っていたという藤野。本作の主人公の糸里と撮影時の藤野は同い年だったが、糸里は江戸時代の女性で、しかも舞妓ということで、その生き方は全く異なる。
それ故、少女から大人の女性へと変わっていく糸里の心情を、加島幹也監督から一つ一つ丁寧に教えられながら演じたという。
「この作品は私にとって、学生から大人へと考え方が変わる第一歩になりました」と語る藤野。憧れの女優はオードリー・ヘプバーンで、将来は『麗しのサブリナ』(54)のような映画にも出てみたいという。
どちらも今後が楽しみな2人の女優。次はどんな役で観客の前に姿を現すのだろうか。
(田中雄二)
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