ナビスコカップの楽しみのひとつに、コレオグラフィがある。
(旗やら紙やらを掲げ、チームカラーやユニフォームの模様、
メッセージなどを浮かび上がらせる人文字のこと)

両軍のサポーターは選手入場に合わせ、
それぞれのチームを鼓舞するメッセージを送るのは、
ナビスコカップ決勝の恒例の風景と言える。
(J’s GOALで、2003-2009年のコレオグラフィの写真が見られます)

そして、10/29(土)・国立競技場での決勝に勝ち残ったのは、
浦和レッズと鹿島アントラーズ。

J1リーグ戦での節目の試合やナビスコカップ決勝、
ACL決勝に天皇杯決勝、引退セレモニーと、
数々の名作を作り上げてきたレッズサポのコレオグラフィは、その完成度で群を抜く。
(レッズサポは複雑な形のエンブレムさえも、
完璧にコレオグラフィとして浮かび上がらせた実績あり!
まあ、見てください)
 

ポンテ退団セレモニー

 

当日、どんなコレオグラフィが飛び出すのか、試合前の楽しみのひとつである。

だが、しかし、肝心のレッズサポは、複雑な気持ちで当日を迎えるだろう。
と言うのも、ナビスコカップウィナーがその後、
J2降格の道を歩むというありがたくないジンクスがあるのだ。

2005・2006年覇者のジェフ千葉が2009年にJ2降格した際は、
「まあ、そんなこともあるだろう」なんて言えたが、
2008年王者の大分トリニータが翌年にJ2降格に陥り、
2009年王者のFC東京も翌年にJ1残留を果たせなかったとなると、
「偶然」と片付けるわけにはいかない。
(昨季優勝のジュビロ磐田は、今季の残留争いを免れ中位に位置しているが、
昨年ナビスコカップ優勝後は1勝2分3敗と失速した……)

もちろん、「ナビスコカップで優勝してほしい」というのが、レッズサポの願いだろう。
ただ、ナビスコカップのジンクスも気になる。
なぜなら、浦和レッズは残留争いを強いられている15位にいる。
30節で9試合ぶりに勝利を挙げ勝ち点32とするも、
16位・ヴァンフォーレ甲府・勝ち点30と熾烈なデッドヒートを繰り広げている。

さらに言えば、ここに来てのペトロビッチ監督の辞任騒動もあった。

事が明るみになったのは、9月12日だった。
ペトロビッチと柱谷幸一GMの関係が悪化の一途を辿り、
フロントはGMを解任し、監督を支えるという姿勢を打ち出した。

それから1ヵ月後、10月15日の大宮戦後の記者会見で、
ペトロビッチ監督は「自分はできる限りのことを尽くして、浦和を愛するハートがあるので残りの5試合、全力で戦う。
ただし、今の時点で正直に話すと、残り5試合が終わったら、自分は次の年には残らないという決断を下した」と、突然の辞意表明をしたのだ。

10月9日、ナビスコカップ準決勝でガンバ大阪を破った試合後、
「自分の監督のキャリアでもものすごく大きな1日。
自分も強いスピリットで浦和レッズのために仕事をします」と、
宣言した後の突然の変わり身だった。

急遽、監督の任を任された堀新監督は、
準備期間2日という中で、勝ち点3を勝ち取ったが、まだまだ予断は許さない。

先制点を挙げた原口が試合後、人目をはばからず涙を見せるなど、
残り1ヵ月以上、このハイテンションを保つことができるなんて保証はどこにもない。

レッズサポにとって、ナビスコカップは勝てば勝ったで気の緩みが怖く、
もちろん負けたら負けたで勢いをそがれる心配がある。
しかも、相手は百戦錬磨のアントラーズ……。

ただ、このヒリヒリ感こそ、決勝の醍醐味とも言える。
そもそも、準優勝チームにファイナリストの喜びはない。
最もダメージの大きい敗者でしかないのだ。

レッズとアントラーズのサポーターは、
この張り詰めた緊張感とその後に訪れると信じた爆発のときを待ち、
他チームのサポーターは選手入場のクレオグラフィから高みの見物を決め込む。
(敗退しといて、高みの見物もないのだが)

コレ、正しいナビスコカップ決勝の正しい観戦法と言える。

 

 

あおやま・おりま 1994年の中部支局入りから、ぴあひと筋の編集人生。その大半はスポーツを担当する。元旦のサッカー天皇杯決勝から大晦日の格闘技まで、「365日いつ何時いかなる現場へも行く」が信条だったが、ここ最近は「現場はぼちぼち」。趣味は読書とスーパー銭湯通いと深酒。映画のマイベストはスカーフェイス、小説のマイベストはプリズンホテルと嗜好はかなり偏っている。