まず、結成してまもなく、いきなりあの「ボキャブラ天国」に出演。
(ちなみに初期のキャッチフレーズは“青梅街道の蒼い星”)
1999年になると「爆笑オンエアバトル」に一回目から出演し、以後常連に。
この「オンバト」では、強豪コンビとしての地位を築き、ついに第五回チャンピオン大会で優勝。
その後、プラチナバトラーにして、ゴールデンバトラーのダブル称号を獲得し、“オンバトの顔”であった。
そして2003年からは、「エンタの神様」にレギュラー格で活躍。2004年にスタートした「笑いの金メダル」でも第一回からチャンピオンになり、これまた以後常連。さらには「爆笑レッドカーペット」にまでも出ていたという。

通常、若手お笑い芸人たる者は、お笑いネタバトル番組で人気を獲得すると、それ以降はネタバトル番組を卒業していくものだ。
でもアンジャッシュは違った。
時代時代に沿った新ネタをおろして、時代時代ごとに新たなネタバトル番組と添い寝し、乗り換え続けてきた。しかも十年以上にもわたって、だ。

そうなった理由はいくつかある。
ひとつの番組でプチ・ブレイクしても、トーク・バラエティではいまひとつ成功できず、ネタバトル番組から卒業できなかったこと。
とはいえ、ネタバトル番組に対しては、彼らには新ネタを次々と繰り出せる生産力があり、
バリエーションも豊富(勘違いネタ、すれ違いネタ、音響ネタ、映像ネタ、泥棒ネタなどなど)であったため、番組サイド、視聴者サイドからも常に飽きられることなく、フレッシュさまでをも与え続けることが出来た。
だから、長きにわたって、ネタバトル番組を渡り歩くことができたのである。

本来ならば、事務所の先輩であった、あのビシバシステムのように
“通ウケする、大人のコント師”になる可能性もあった。
コントは一級品、トークバラエティは苦手。しかし、知る人ぞ知る、大人のコント芸人となる可能性があった。
ところが彼らは、そうはならなかった。
上手いくせに見てくれは、若手芸人であろうとした。

そうせざるを得ない理由とそれに対応できる能力があったことも相まって、アンジャッシュは、常にニューフェイス的な立ち居振る舞いで、新作コントを品揃えよろしく量産し続け、それもかなりのクオリティで量産し続け、老けることもなく貫禄もつくことなく、フレシッュな若手のまま、はっきり言えば若手のフリして今日まで歩んできた。 

とはいえ、問題意識も危機感もあったはずだ。
なにしろここ数年、テレビにおけるネタ番組は確実に減っていた。
当然、彼らにもその皺寄せがきたはずである。なんとかしなきゃいけないと思っていたはずである。
渡部は仕事が減った時期に、これではいかんとグルメ道を究めたり、恋愛心理学を学んだり、
処女小説を発表するなど、コント師ではない渡部としてバラエティに出演して、
着実に“ピン芸人・渡部”としての足場を固めつつあった。

書籍 渡部建「エスケープ

   
一方の児島は、役者にトライすることが多くなっていた。
もしかしたら、児島は渡部のような知識ネタ、トーク術、さらにはキャラはないと思っていたのかもしれない。だからコント師を極めつつ、俳優でと考えていたのかもしれない。 

それが2011年、潮目が変わった。
前述にもあるように「リンカーン」「キング・オブ・コント」をきっかけに、
児島のイジられキャラが発覚、露呈し、あのダウンタウンからおもしろがられた。お墨付きを得たのである。一挙に“児島はおもしろい”と認可され、認知されたのである。
先日、アンジャッシュが出演した「しゃべくり007」のオープニングトークにおいても、“ダウンタウンお墨付き”の児島は、しゃべくりメンバーから、突っ込みの集中砲火を浴びていた。
このときのオープニングトークに要した時間は、通常ゲストのなんと倍。
まさに“今が旬のイジられ芸、イジられ芸人”である。
しかも、このときは、キレ芸も冴えまくっていた。


そして注目すべきは、このとき渡部である。
通常、コンビのうちのひとり(特にボケ)がブレイクすると、相方はしばらくの期間、
自分の立ち位置を見出すのにかなりの時間を要するものである。
しかし渡部はすでにピン芸人としてプチブレイク済み。
だから児島のブレイクに対しても、しっかりと自分の立ち位置を確立していた。
迷いもなければ、焦りもない。
ちなみに「しゃべくり007」での渡部の立ち位置は、児島をもっとキレさせる人物。
揺るぎなきスタンスから、揺ぎなきテイストで児島を何度も何度もキレさせ笑いを獲っていた。
しかも、ピンとしての児島とピンとしての渡部の融合ではなく
ちゃんと、アンジャッシュとしての世界が確かにあった。

   
特筆すべきは、キャラが見えてこなかった児島が、
実はキャラがあり、しかもそれが、芸人たちによって発掘されたという点であろう。
本人が考え込んでキャラの方向性を決めてブレイクしたのではなく、本人が気づかない、あるいは隠していたキャラが引っ張り出されたということである。
これは昨今のバラエティにおいて、ひな壇芸人の共演が増えたこと、あるいは集団MCスタイルが増えたことが大きく起因しているかもしれない。

若手中堅芸人たちが様々な番組で、その人物の素を知りコミュニケーションを重ねることで、素のキャラ、隠れていたキャラが発見され、引き出されていく。
そして引き出された方も、コミュニケーションを重ねてきた仲間芸人に対しては信頼して、自らを委ねることができる、ということなのかもしれない。

キレ芸、イジられキャラを仲間の芸人から発見されたニュー児島を切り込み隊長に、アンジャッシュがこの春、遂にブレイクする。 

おおさわ・なおき 編集者歴20年強。趣味は、読書と落語とお笑いとスポーツ観戦(特にプロ野球と大リーグ、メジャーリーグなんていいません、大リーグです)を深く愛する。おまけにねこも深く愛しております。