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 “キング・オブ・ソウル”と呼ばれた男、JBことジェームス・ブラウンの伝記映画『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』が30日から公開された。

 『42~世界を変えた男~』(13)で黒人初のメジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンを演じたチャドウィック・ボーズマンが見事にJBに成り切り、圧倒的な歌唱や股割りをはじめとする独創的なパフォーマンスを披露している。

 映画は、中年のJBがショットガンをぶっ放し、パトカーに追いかけられ、カーチェイスの末に逮捕されるところから始まる。このシーンの異様さだけでも、本作がありきたりな伝記映画とは異質のものだと分かる。

 そして、極貧の果てに両親に捨てられた幼い日、窃盗による服役、バンドの結成、スターダムへの道、公民権運動の高まり、音楽的な行き詰まり、友や仲間の離反、転落、そして復活と、波瀾(はらん)万丈のJBの人生が、親友のボビー(ネルサン・エリス)との関係を軸にして描かれていく。

 そんな本作は、ミック・ジャガーがプロデュースし、1960年代の米ミシシッピを舞台に、白人女性と黒人家政婦たちとの友情を描いた『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』(11)のテイト・テイラーが監督した。

 ミックの視点は、歌手、パフォーマーとしてのJBの類いまれな才能を再現する音楽シーンに生かされ、テイラーの視点は、JBの破天荒な人生を通して30年代から現代までの米黒人史の裏側を語ることに生かされた。そうした重層的な構造が本作をユニークな伝記物として成立させた。

 また本作は、製作のミック、監督のテイラー、JBを演じたボーズマン、マネジャー役を演じたダン・エイクロイドを筆頭に、スタッフ、キャストがその欠点や汚点も含めて、ジェームス・ブラウンという一人の人間を愛し、尊敬しているという思いが画面からあふれてくるところに好感が持てる。

 昨年は本作の他にも、『ジャージー・ボーイズ』(フォー・シーズンズ)、『JIMI:栄光への軌跡』(ジミ・ヘンドリックス)、8月1日公開の『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』(ザ・ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソン)と、60年代の音楽シーンを背景に、スーパースターの栄光と苦悩を描きながら、時代の息吹を再現した映画が製作された。この流れはまだまだ続きそうだ。今度はどんなスーパースターがスクリーンでよみがえるのだろうか。(田中雄二)