アリアーナ・リヴォアール

「小さな頃、ヘレン・ケラーの映画を観ました。まさか私がそのフランスバージョンといえるマリーを演じられるなんて思ってもみませんでした。本当に素晴らしい経験です」。19世紀末のフランスを舞台に、生まれながらに聴覚と視力に障がいを持った少女マリーと、彼女の教育に身を捧げた修道女マルグリットの実話を描いた『奇跡のひと マリーとマルグリット』のマリー役で主演デビューを飾り、来日したアリアーナ・リヴォアールに話を聞いた。

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アリアーナは自身も聴覚にハンディキャップを抱える二十歳の女性。女優志望だったわけではなく、オーディションにも参加していなかった。「学校にオーディションについての張り紙がしてあったのですが、あまり理解できなくて、興味ないわと放っておいたんです(笑)。でもそんな私をジャン=ピエール・アメリス監督が見出してくれました」。

アリアーナが強く惹かれたのは「マリーの変化」と「マルグリットとの関係」だった。「マリーは本当に動物のような子でした。まさに野生児。両親との関係もうまく築けていないし、医者からは頭がおかしいと思われている。人生に見放されかけた女の子だったんです。でもラルネイ聖母学院でマルグリットに出会ったことで、彼女はそこから抜けだしていく」。重要だったのは、マルグリットが諦めずにマリーを理解したことだとアリアーナは力説する。

「最初、修道院長はマリーを拒否します。でもマルグリットは、マリーには希望があると気づくんです。この子も人生や夢が開かれている子なんだと。そのことを、マリーの手のぬくもりなどから、マルグリットは感じ取ったんですね。そして諦めずにマリーに会いに行き、学校へ連れ帰り、やがてコミュニケーションをとっていく。監督から説明を受けて『マリーをやりたい!』と思いました。そのとき、やはりヘレン・ケラーが頭をよぎりました」。

もうひとりのヘレン・ケラー、マリーを見事に体現したアリアーナ。初めて取り組むには肉体的にも精神的にも難しい役柄だったはずだが、アリアーナは次のように言い切った。「大変な役柄ではありませんでしたよ。とてもシンプルなことです。マリーはどんどん進化して、一人前の人間になっていくわけですが、私にとって彼女を演じることはまったく難しいことではありませんでした」。この自信も、本作を観れば納得できることだろう。

『奇跡のひと マリーとマルグリット』
6月6日(土)シネスイッチ銀座ほかにて全国順次ロードショー

取材・文・写真:望月ふみ