ごほうび作戦

中島さんの息子さんは、10日連続忘れ物をしなかったら、マンガの単行本を買うという”報酬“を目標に、見事、ドラえもんの単行本をゲットしたそうです。

このような“報酬”または“ごほうび”は、忘れ物をさせないためにモノで釣っていいのか、と後ろめたい気持ちになるかもしれませんが、習慣になるまでに限ってなら効果がありそうです。また、ごほうびと言っても特別な物や高価な物にする必要はありません。

実際、中島さんのお子さんは、10日続けると習慣化したのか、忘れ物をしない日が続いているそうです。

また、学年が上がるにつれて、忘れ物をしなくなるという達成感そのものが報酬になってくるそうです。これは大人であっても同じですよね。

ホワイトボードを活用

言葉だけで子どもにわからせようとしたって、無理な話です。

前回、中島さんにインタビューした記事で、ADHDタイプのママは、視覚優位という特性があるため、デジタル時計よりもアナログがいいというくだりがありました。みえる形でないと、実感がわきにくいのですね。

忘れ物が多い子どもにも、同じ配慮が必要なのだそうです。

「ホワイトボードにイラストを描いて説明するんです。ランドセルを背負って、帽子をかぶって、という風に描くと、登校時になにが必要か、一目瞭然でわかりますよね」
と中島さん。

ガミガミ言うよりも、イラストで伝える方が、ママの気持ち的にも楽かもしれませんね。

時には困ってもらうことも大切

子どもに忘れ物をさせまいと、親がいろいろ先回りしてしまうと、あとあとぼーっとした子に育ってしまうかもしれません。

そこで、これは荒療治ですが、小3くらいまでは、いっそ盛大に忘れ物をさせて、「忘れ物をすると困る」ということを実感してもらうのも必要なのだとか。

最初はかなりママの方がウズウズしてしまうかもしれませんが、まず、この困り感を通過しないと、なぜ忘れ物をしてはいけないかがわからないままになってしまいます。子どもが困って初めて、“ではどうしたらいいか”を一緒に考えていけたらいいですね。

トライアルを与えてみる

すぐに得られる報酬ではなく、面倒なことを先にやって、あとでいい思いをするのはどう? という提案をしてみるのもいいかもしれません。

これも中島家の例ですが、息子さんが夕方見たいアニメの開始時間までに、「宿題全部終わらせて、すがすがしい気分でテレビを見るのはどう?」という提案をしてみたそうです。

「宿題がまだだと、“あとで宿題やらなくちゃな、またママに言われるな”と思いながらアニメを見ることになるけど、それと比べてどっちがいい?」と聞いたところ、息子さん、宿題を終わらせた方がいいと言って、実行できたそうです。

この場合、息子さんは、うまくいった時のことをリアルにイメージできたので、面倒なことにも取り組めたのでしょう。“いやだからやる“のではなく、“こうした方が、気分がいいからやる“方が、子どもでも大人でも気持ちがいいものですよね。

本当なら、忘れ物をして困るのは、本人であってママではないはずです。ですが、世のママは子どものためを思うばかり、つい本人より忘れ物対策をがんばってしまいがち。

ここは力を抜いて、あくまでも子ども主体で忘れ物対策を立ててみてくださいね。

【取材協力】中島美鈴さん

撮影 森永健一

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。

他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。