中年男が1人でメシを食べ歩く『孤独のグルメ』、フレンチ料理人が戦国時代にタイムスリップする『信長のシェフ』、登場人物が延々と食べ物トークを繰り広げる『めしばな刑事タチバナ』――いまだ進化を続け、実写化などメディアミックスも盛んな“グルメ漫画”。今回はそんなグルメ漫画の中から、有名無名を問わずとびっきり個性的な4タイトルを集めてみた。

現代では描けない! 驚きの調理シーン
『包丁人味平』(原作:牛次郎 作画:ビッグ錠)

グルメ漫画の元祖と言われる伝説的なタイトル。週刊少年ジャンプでの連載時期は1973~1977年。なんと40年も昔の作品になる。

偉大な板前である父のもとで育った主人公・塩見 味平は、若くして家を飛び出し料理人の道を歩みはじめる。そんな味平が修業の過程で、数多くのライバルたちと料理勝負で火花を散らすストーリーだ。

この作品には大きな特徴が2つあり、1つめは現代でも通用するグルメ漫画の基本フォーマットのほとんどを作り上げたこと。後から料理を出したほうが勝つ、安い食材で高級食材より美味しい料理を作る、主人公が日常のなにげないシーンから料理のヒントを閃く……こうした“お約束”を広めたのは間違いなく『美味しんぼ』の功績だが、先に描いていたのは『包丁人味平』のほうなのだ。

2つめの特徴は、21世紀の現代ではとても描写できないシーンが見られること。たとえば制限時間内にどれだけ多くの揚げ物を作れるかという勝負では、完成した料理を審査員は食べもせず、地面に放り投げてカウントしている。また、絶妙な塩かげんが求められる吸い物勝負では、なんと調理中に偶然混入した汗がほどよい隠し味となって勝敗を決めた。現代人の感覚で見れば吸い物の味など以前に「保健所に電話しろ!」となるだろう。今では信じられない(掲載できない)ような描写ができていた、1970年代のおおらかな空気を感じ取ることができる。

さすがに一部描写や絵柄こそ古いが古典の傑作といえる完成度なので、興味がある人は比較的入手しやすい文庫版、または電子コミック版でご覧いただきたい。

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