史上最強のリアクション漫画
『焼きたて!!ジャぱん』(作:橋口たかし)

意外とありそうでなかった、パンを主題にしたグルメ漫画。連載期間は2002~2007年で同時期にテレビアニメ化もされた。当時、山崎製パンとコラボしたパンを店頭で見かけた人も多いだろう。

主人公は幼いころからパンに魅せられた少年・東和馬。彼は世界に誇れる日本人のパン“ジャぱん”を完成させるためパン職人を志し、多くの仲間やライバルと出会っていく。本作の特徴はパンの素材や製法についての深い知識、キャッチーな絵柄(特に美少女キャラ)もさることながら、何より常識をはるかに超えた“審査員たちのド派手なリアクション”が語りぐさになっている。

あまりにパンが美味すぎて仮死状態になる、海苔を入れたパンを食べてノリスケ(『サザエさん』の登場人物)の顔になる……くらいはまだ序の口。パンを食べることでタイムスリップして過去に死んでしまった人間を救う(歴史の改変)、パンを食べたリアクションで世界中の大陸を浮遊させる(大災害から人類を守る)など、物語が後半に進むほど“美味しいパンを作る”ではなく“狙い通りのリアクションを取らせる”ことが中心になっていった。

この路線転換にはファンからは「まじめに料理勝負をしろ!」という批判意見と、「もっとリアクション方面に突き抜けてくれ」という肯定意見の両方があった模様だ。いずれにしても伝説になるほど絶大なインパクトを残したことは間違いない。グルメ漫画としての『焼きたて!!ジャぱん』を知りたい人は、比較的リアクションが控えめだった単行本7巻あたりまでを読んでみるといいだろう。

“美味しさ描写”をブン投げた超ワイルド・グルメ
『山賊ダイアリー リアル猟師奮闘記』(作:岡本健太郎)

本物の猟師が描いたとして注目を浴びた、ドキュメンタリー仕立ての異色グルメ漫画。主人公の岡本(作者)が東京から生まれ育った岡山に移り、新米ハンターとして奮戦する様子が描かれている。

近年しばしば耳にする“ジビエ料理”をテーマにしているわけだが、表紙カバーに「カラス食べたことありますか?」と書かれている時点で読者は嫌な予感から逃れられない。そして1ページ目を開き、山を歩く主人公が野ウサギの糞を食べているシーンで予感が確信に変わる。そう、この作品はグルメ漫画の作者が頭を悩ませる“美味しさ”の描写を二の次にして、“リアルな猟師生活”を伝えることに特化しているのだ。

リアリティにこだわるだけあって、描写の細かさは他の追随を許さない。ジビエ料理を食べる前にまず獲物の解体、その前に罠や空気銃での狩猟、その前に銃の購入、その前に銃所持の許可証取得、その前に狩猟免許の取得……といった具合だ。

実際の狩猟シーンにしても、ただ物陰に隠れて獲物を撃つだけではない。時にはハンター仲間と共同戦線を張ったり、不注意で遭難しかけたり、罠にかかったイノシシに心を痛めながらトドメを刺したり、遭遇したマムシを捕獲して食べたり、「そこは本当に現代の日本なの?」と言いたくなるほど全エピソードが野性味に満ちている。

ほ乳類の解体シーンまで細かく描かれているため女性読者には少し辛いかもしれないが、男性ならそんな猟師生活に憧れてしまう人も多いはず。読んだ後は血のしたたるステーキを食べたくなる、ワイルド&エキサイティングな漫画だ。