演出を務めるマックス・ウェブスター 演出を務めるマックス・ウェブスター

中谷美紀と神野三鈴による二人芝居『メアリー・ステュアート』が6月13日(土)、東京・PARCO劇場にて開幕する。16世紀の英国を舞台に、スコットランド女王メアリー(中谷)とイングランド女王エリザベス1世(神野)の対立、生きざまを描いた本作は、過去に同劇場において二組の女優ペアが競演。今回は10年ぶりに新たな顔合わせでの女優対決が実現した。さらなる注目はイギリス演劇界の精鋭マックス・ウェブスターによる新演出である。開幕を間近にひかえた話題作の稽古場を訪れた。

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舞台セットの上には、肘や膝にサポーターをつけた中谷と神野がいた。まず始まったのは、メアリーと、神野が演じる乳母ケネディとの激しいアクションの確認である。神妙に動線のチェックをするふたりの女優の顔が、徐々に昂揚。いつしか迫力を帯びたぶつかり合いへと変わっていく。自身の感情に忠実に生きたメアリーゆえの激情を、中谷が鬼気迫る表情で全身を踊らせて表現。その熱を受けとめる神野も必死の形相で激しく立ち回る。高貴な女王たちの物語と思っていたら不意を突かれる、予想外のパワフルなステージングだ。演出のウェブスターもふたりの女優のたくましいやりとりを笑顔でみつめていた。続いて、この戯曲の要とも言えるシーンの稽古に入る。史実では出会うことのなかったメアリーとエリザベスが、夢の中で相対するのである。女王同士の毅然とした対話はいつしか、情愛にあふれた姉妹のじゃれ合いへと変化。中谷と神野の振り幅の大きい演技が、不思議なエロチシズムを生み、場の空気を支配していった。ウェブスターはシーンを止めると舞台に上がり、キャラクターの感情の流れを事細かに説明。「質問!」と神野が手をあげ、時おり笑いが起こるなどして、三人の時間をかけた話し合いは続いた。

「中谷さんと神野さんは、ルックスも演技スタイルもエネルギーも全然違う。だからこそお互いを補い合える、いい組み合わせだと思います。会ってすぐにふたりとも、非常に知的でカリスマ性のある優れた女優だとわかりました」とウェブスター。初めての日本での舞台作りについて「とても幸運でエキサイティング。クオリティの高い作品になりそうです」と言葉に力を込めた。

「この戯曲の面白い点は、女性に求められるもの、それが彼女たちの人生にどう影響を及ぼすかに焦点を当てているところです。キャリアに重点を置くか、それとも恋愛などプライベートに重点を置くか。その選択に対する代価とは何なのか。ふたりの女王が直面しているジレンマを、今を生きる私たちの問題ととらえて観ていただけたらと思います」

その狙いに添って衣裳や美術も、古風とモダンの両面を感じさせるイメージを追求。劇中を流れる古楽器リュートの魅惑的な音色も、歴史と現代の垣根を揺るがす効果を発揮していた。二人の女優が体当たりで挑む濃密な人間ドラマ、その奮闘をぜひ見届けたい。

舞台『メアリー・ステュアート』は6月13日(土)から7月5日(日)まで東京・PARCO劇場にて上演。その後、大阪、広島、愛知、福岡を周る。

取材・文:上野紀子