千円でべろべーろになれるせんべろ酒場。
今夜やって来たのはやきとん屋や関西串カツ、老舗の居酒屋が並ぶ阿佐ヶ谷スターロードだ。
ふと見慣れぬビニール張りの、それこそ屋台に毛が生えたような店が目に飛び込んだ。
その名も「阿佐立ち」。
「せんべろできます」「お客様大募集」とペンで書かれた張り紙がなんだか
なりふり構わぬ必死さを醸している。


五人は入ればもうきっつきつの店内に、なんとか体を押し込むと、
「らっしゃいませー! あのう、うち座れる”はなれ”もすぐ目の前にあるんですけど、そっちはどーでしょう!」とカウンターの中からやんちゃな感じの店員が言う。
いったんは彼に誘導され、斜め前のこぎれいな”はなれ”に入店するも、
こちらは鍋料理が主力のようで、どうもこうも落ち着かない。
チャージ300円がまた気になりだしたら止まらない。
「こぎれいが落ち着かない」「チャージが気に食わない」
私の中のせんべろ頑固爺が静かに暴れだす。
もはや取り返しのつかない、せんべろ遺伝子が組み込まれているようだ。
「じつは私、立つのが好きなんで、あっちのビニールの方がやっぱり…」
「チャージがイケマせんでした、か…?」とはなれの店員が恐縮する。
明らかにへんな客が来たという視線を感じながらも、首をぶんぶん振り、
「いやいやいや、ただ立つのが好きなだけなんです」と繰り返す。
かくして数分後、立ち飲みに舞い戻りようやく落ち着きを取り戻した私である。


どうぞどうぞと私に荷物入れのかごを渡してくれるのはお客さんだ。
飲み物も、料理も基本的に、お客さんリレーでこちらに届く。
どうもどうもと仲間入りできたことに小さな幸せを噛み締める。
これが立ち飲みのすてきなところなのだ。