この時期になると気になるのが確定申告です。サラリーマンには無縁と言われていたこともありましたが、節税やサイドビジネスなどで、確定申告をする人も多いのではないでしょうか。今年の期限は3月15日。最終日間際になってあわてて申告用紙を作成し、税務署の行列に並ぶようなことはしたくないものです。税金に関連して登場するのが公認会計士です。そこで山田真哉氏の人気小説『女子大生会計士の事件簿』シリーズを原作とした漫画を紹介しましょう。

題名の通り、現役女子大生でありながら公認会計士としても活躍する藤原萌実(ふじわら もえみ)が主人公です。史上最年少で会計士の試験に合格し、その後大学に進学したと言うのですから、優秀なのは折り紙付きでしょう。まぁ普段はいわゆる女子大生らしいところもあったり、ちょっととぼけたりするような場面もあったりするのですが、一旦監査となると、まさに仕事の鬼になって、数字と格闘しまくります。一緒に仕事をする同僚の柿本一麻(かきもと かずま)と数字に潜む悪を退治する、と表現しても面白いかもしれません。こんな会計士がオリンパスにいたら……とも思うのですが、さすがに現実は難しいでしょうか。
この小説は人気シリーズなだけあって、2度漫画化されています。

   
まず集英社の「週刊ヤングジャンプ」で連載されていた『女子大生会計士の事件簿 公認会計士萌ちゃん』(高野洋)です。原作小説をほぼそのままベースにしていますが、漫画ならではのオリジナル部分も、少なからず加味されていて、漫画化するにあたって考えたんだろうなぁと、思わされることも度々です。ただちょっと気になるのはキャラクター。設定では女子大生で“美人”会計士の藤原萌実のはずなんですが、ちょっともっさりした感じ。パートナーを組む柿本一麻も、もう少し格好良くとは行かないまでも、いくらかスマートであれば良かったかなと思います。

ただそれを補って余りあるのがストーリーです。原作がしっかりしていることもあって、現実世界にあってもおかしくないような、きちんとした展開が続いていきます。また適度に分かりやすい解説もあって、専門的な会計や金融の知識が無くても、すんなり読めると思います。オリジナルストーリーもありますが、原作者の山田真哉氏がしっかり監修されているのでしょうか、他のストーリーと比較しても、遜色ないものでした。

前回、遠山の金さん漫画を紹介しましたが、この作品でも不正に対して、萌実達がスパッと切るような場面が出てきます。いわゆる見せ場なんですが、大げさに啖呵を切るのは、小説や漫画のフィクションならではですね。でも悪は必ずあぶりだされて処罰されるのは、定型的ではありますが、痛快に楽しめます。ただそれだけに公認会計士の何たるかを知りたいと思う人には、不満に感じるかもしれません。あくまでも藤原萌実の活躍を描いた会計士アクション漫画と思った方が良いでしょう。
コミックスは3巻で一応は完結しているのですが、小説の展開を考えれば、やや物足りないと感じてしまいます。「週刊ヤングジャンプ」の読者層に合わなかったのか、それとも先に述べたようにキャラクターに人気が無かったのか。それでもオリンパスやAIJなど会計問題が多発する現在にこそ、ぜひお勧めしたい作品です。

そして角川書店の「コミックチャージ」で連載されていた『女子大生会計士』(左菱虚秋)です。キャラクターを含めて、絵柄はこちらの方が原作小説に合っているように思います。ただ「週刊ヤングジャンプ」と比較して、ストーリーに漫画オリジナルの部分が多く含まれています。この辺りのさじ加減は難しいところですね。「コミックチャージ」のキャラクターと「週刊ヤングジャンプ」のストーリーであれば、漫画化の効果は一段と大きなものがあったのではないでしょうか。

掲載誌の「コミックチャージ」は青年向けの漫画雑誌として2007年に創刊されましたが、2年足らずで休刊となってしまいました。それもあってか『女子大生会計士』も1巻で終了しています。コミックチャージの人気ランキングでは1位が多かったとのことなので、掲載誌が違っていたら、もっと長期連載されていたかもしれません。なんとも惜しいです。2作あわせて4冊、ぜひ一緒に読んでみてください。 

あがた・せい 約10年の証券会社勤務を経て、フリーライターへ転身。金融・投資関連からエンタメ・サブカルチャーと様々に活動している。漫画は少年誌、青年誌を中心に幅広く読む中で、4コマ誌に大きく興味あり。大作や名作のみならず、機会があれば迷作・珍作も紹介していきたい。