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 “北欧の至宝”と呼ばれるマッツ・ミケルセン主演の『悪党に粛清を』が27日から公開された。監督、主演は共にデンマーク人、南アフリカでロケが行われた異色の西部劇だ。

 1870年代のアメリカ。デンマーク移民のジョン(ミケルセン)は、苦労の末に事業を軌道に乗せ、妻子を呼び寄せる。だが駅馬車で家へ向かう途中、荒くれ者に妻子を殺されてしまう。ジョンは犯人を射殺するが、彼は町を牛耳るデラルー大佐の弟だった。大佐の怒りを買ったジョンは、町民の裏切りに遭い、大佐の手に落ちるが…。

 西部劇とは、主にアメリカの西部開拓時代を舞台にした物語。その魅力としては、壮大な風景、分かりやすいストーリー展開、男の友情と対立、華麗なガンプレー…などが挙げられるが、無法の地が舞台となるだけに復讐(ふくしゅう)も重要なテーマの一つとなる。

 本作でも、愛する者を殺され自暴自棄となった主人公が、虐げられた末に立ち上がるという設定の中、ミケルセンが強さと弱さを併せ持った主人公を見事に演じ、復讐に説得力を与えている。

 また、西部劇とは突き詰めれば移民たちの物語でもある。例えば、名作『シェーン』(53)や『天国の門』(80)は東欧移民たちのその後を描いている。

 本作のクリスチャン・レヴリング監督も「アメリカの大西部を生き延びた大多数の人はヨーロッパからの移民だった。彼らは戦火や貧困から逃れて、新たな人生を歩むという希望を持っていた。ワイルド・ウエストの歴史は私たちヨーロッパ人の歴史でもあるのだ」と語る。実際に米西部に渡ったデンマーク人も数多くいたという。本作は決して絵空事を描いているわけではないのだ。

 加えて、レヴリング監督が「ジョン・フォード、セルジオ・レオーネ、黒澤明から影響を受けた」と語るように、本作には、正調西部劇とマカロニ・ウエスタンと黒澤時代劇をミックスしたような魅力もある。

 特に、からっ風、砂ぼこり、かんおけ、モノクロを思わせる暗い画面などは、黒澤の『用心棒』(61)を連想させる。悪人に捕らわれ、散々痛めつけられた主人公が最後に…という点でも『用心棒』で三船敏郎が演じた三十郎と本作のジョンには通じるものがある。 

 レオーネの『荒野の用心棒』(64)はもともとは黒澤の『用心棒』を拝借したもの。その黒澤はフォードの西部劇に憧れていた。つまり、レヴィング監督の「フォード、レオーネ、黒澤」という言葉は、連綿と続く西部劇の輪を表すものなのだ。本作は新機軸の西部劇ではあるが、西部劇の伝統をきっちりと踏まえた上で作られているのである。(田中雄二)

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