左より木野花、鴻上尚史 (撮影:西村康) 左より木野花、鴻上尚史 (撮影:西村康)

演出家の鴻上尚史率いる「虚構の劇団」が、次なる演出家との出会いを求めた企画「虚構の旅団(りょだん)」をスタートさせる。その第1弾として鴻上は、全幅の信頼を寄せる木野花を指名。そこで、鴻上と木野に現在の思いを訊いた。

虚構の劇団 番外公演 虚構の旅団 vol.1「夜の森」チケット情報

企画のきっかけとして鴻上は、「僕はいい意味でも悪い意味でも、役者を愛し過ぎてしまうところがある。だからちょっと、僕以外の目で見てもらう必要があると思ったんです」と明かす。そんな時、鴻上の頭にパッと浮かんだと言うのが木野。木野は外部の目から見た虚構の劇団について、「虚構(の劇団)は鴻上さんの劇団だから、良しにつけ悪しきにつけ、仕上がっちゃうという不幸がある。自分たちで手探りするところに、役者の成長ってあるのに」とズバリ。その言葉に鴻上が深くうなずく中、木野はこう続ける。「それがもったいないと思うところでもあり、私が若い連中とやるのが好きということもあり、引き受けさせてもらうことになりました」。

役者を愛するという点では、木野も鴻上と同じ。しかし決定的に違うのは、木野が「ライオンが子供を崖に落とすように」演出するのに対し、鴻上は「崖の下に一応マットを置いておく」ということ。だからこそ鴻上は「木野さんの演出で這い上がってこられたら、役者として絶対に一皮剥けるはず」と大きな期待を寄せる。

上演する『夜の森』は、かつて木野が若い役者の育成を目的に立ち上げた「木野花ドラマスタジオ」の卒業公演用に書き下ろしたもの。元はスタジオの生徒に当て書きされた作品だが、今回木野は「エチュードをやりつつ、虚構の役者に合わせて変えていこうと思っています。そして私としても一度やっているものなので、これをいかに壊せるかが課題。しかも無意味に壊すのではなく、虚構でやるからこそこうなったという必然的な舞台が見つかったらいいですね」と、本作への意欲を覗かせた。さらに木野は、「若い役者への演出は、未熟である分、より頭を使わされる」と言う。そこが木野にとって大きな魅力であり、同じベテラン演出家である鴻上としても、共通する思いなのだろう。

ちなみに本作、鴻上は完全にノータッチ。だが誰よりもこの作品を楽しみにしているのは鴻上自身のようで、「4年間鴻上がつき合ってきた虚構のメンバーたちが、木野花ワールドでどのような花を咲かせるのか、非常に楽しみ」と目を輝かせる。鴻上&木野のWテイストで味わう、一度で二度おいしい舞台。今からその開幕が楽しみでならない。

公演は4月5日(木)から15(日)まで東京・新宿シアターモリエールにて開催。チケットは発売中。

取材・文:野上瑠美子