『戦火の馬』を手がけたスティーヴン・スピルバーグ監督

スティーヴン・スピルバーグ監督の最新作『戦火の馬』が2日から日本公開されている。アメリカ映画界を代表する映画作家のひとりで、つねに複数の脚本や企画が舞い込んでいるであろうスピルバーグ監督は、なぜこの物語を映画化したのだろうか? 監督の最新コメントが届いた。

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『戦火の馬』は、1982年に英国で発表された児童文学を原作に、第一次大戦下の過酷な状況の中で生き抜く“奇跡の馬”ジョーイと、彼を愛する少年アルバートら人間との絆を壮大なスケールで描いた作品。

スピルバーグ監督がこの物語に出会ったのは、『タンタンの冒険』の製作中のこと。朋友のプロデューサー、キャサリーン・ケネディに原作本を紹介された時も監督は「正直に言えば、自分が『戦火の馬』を監督するなんて思ってもみなかった」と振り返る。しかし、ロンドンで舞台版『戦火の馬』を観て、監督の考えは一変する。「ロンドンの舞台を観に行ったら、僕はハートを鷲づかみにされた。あまりにも強烈な体験で、映画を作らざるを得なくなったんだ。この感覚は言葉ではとうてい表現できないものだ。僕自身、この現象をうまく表現することができない」と語るスピルバーグ監督は、このようなことは「めったにない」という。

しかし、本作を映画化するにはとても高い障害を越えなければならなかった。それは“馬”だ。舞台版では複数のパフォーマーが精巧な巨大パペットを動かして馬を表現したが、映画版では本物の馬が演技をする。しかし、監督が「彼らは脚本に興味がないし、一緒に散歩に出かけて心を通わせれば、仕事がスムーズに行くというわけでもない」と笑うとおり、馬は人間の要求を完全に聞き入れてはくれない。「馬が現場でじっとしていてくれることを望むんだけど、いつでも従ってくれるわけではない。でも、気分が乗ると、馬たちは圧倒的な存在感を発揮するばかりか、脚本にはなかった細かなニュアンスを付け加えてくれる。この映画ではCGで作った馬は3ショットしか登場していない。映画に登場する98パーセントの馬は本物だよ。CGで処理したのも、馬を怪我させるリスクがあった場面だけだ」。

スピルバーグ監督は、物語を描く方法を知り尽くした才人だ。彼が他の監督と比較して驚異的なまでに早く撮影を終えるのも、頭の中に明確なイメージがあるからだろう。しかし、本作では監督のイメージどおりには決して動かない、と同時に監督のイメージ以上の演技を見せる“馬”が出演したことで、これまでのスピルバーグ作品にはなかった演技やドラマ、そして人間と馬の絆が生まれる瞬間が描かれている。

『戦火の馬』
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