VAIOの吉田秀俊社長。手にするのはスパイラルキュートのコウペンちゃん

「EMS(受託製造サービス)事業の売上構成比は約2割、案件ベースで前年比2割増で伸びている」。1月16日に新規事業として「ロボット汎用プラットフォーム」の提供を発表したVAIOの吉田秀俊社長は、EMS事業が好調に推移している様子を語る。

ノートPCのVAIOの販売がメインの事業である同社にとって、EMS事業の規模はまだ小さいものの、利益面での貢献が期待できる。ちなみに、2018年9月期の売上高が214億円(前年比13.8%増)なので、EMS事業は約43億円ということになる。

ロボット汎用プラットフォームでは、AIBOなどのロボット製造技術で培ったモノづくりの知見や、これまで受託してきたロボット開発や製造に必要な機能を一つのパッケージとして提供することで、ロボット製造を検討する企業の参入ハードルを低くし、ロボットの普及を促す狙いがある。

また、エンドユーザーにとって10万円以上するロボットの購入はためらうが、音声による癒し機能だけのロボットが数千円で手に入れば、ニーズがもっと膨らむのではないかとみている。

ロボット汎用プラットフォームが提供できる機能や技術は多岐にわたる。電気やメカのハードウエア設計、組み込みファームウエアの設計、VAIO独自の静音ギヤードモータ開発、音声入出力ソリューション、クラウドやローカルの音声認識、音声合成、顔検出・顔認識・顔追従、Q&A対話システム、アプリ開発、OTA機能、ユーザー登録・課金システム、サービス・サポート業務などである。

静音ギヤードモータは、ロボットの手足などを動かすときに使うモータで、通常のモータより約半分の音に抑えられるため、ロボット感を薄めることができるという。実際に聴き比べてみると、明らかに小さな音の違いが確認できた。VAIOが得意とするモノづくりの匠の技といったところだろう。

1社単独ですべてを開発するのはもちろん、こうした個別技術を持つ企業と連携するための商談をするとなると、膨大な時間や人的リソースなど見えないコスト負担が膨らむ。VAIOの場合、「こんなロボットをつくりたい」と企画を投げるだけで、柔軟に対応してくれるイメージだ。

大手企業とは違って、少数精鋭で小回りの利くVAIOならではの強みもある。それがEMS事業の上流設計やワンストップ体制である。

通常、回路設計やメカ設計、製造技術、製造、品質保証など、各工程のエンジニアは商品企画から量産までの各プロセスでか関わってくる。しかしVAIOの場合、全行程のエンジニアが最初の商品企画段階から参加するため、試作や量産までのスピードが速いのだ。

また、企画・設計からマーケティング、アフターサービスまで一気通貫のワンストップ体制で機能する。もちろん、自社が得意とする部分は切り出して、その他を委託するといったことも可能だ。

「ロボットを開発してつくる」となると事業規模やかかる費用が大きいようなイメージを抱きがちだが、VAIOの「ロボット汎用プラットフォーム」のように手軽でスピーディー、低コストで事業展開できる仕組みが広がれば、新しい「モノづくりニッポン」の形が生まれるかもしれない。(BCN・細田 立圭志)