今のヴィジュアル系は新しいことに消極的?

藤谷:やっている本人たちは「他と違うこと」と思っているのかもしれないですけど、事実として頭一つ抜けてるバンドが少ないという現状がありますよね。

今年は音楽サイト「リアルサウンド」でも総括座談会をやったんですよ。やっぱりそこでも、ヴィジュアル系サウンドの魅力って流行り廃りはあれど「なんでもあり」だったはずなのに、今はアイドルやYouTuberの方が「なんでもあり」に見えてしまうと。

吉田さんは「IDOL AND READ」を発行していたりと、現代の最前線のアイドルにもお詳しいじゃないですか。もしかしたら、何か新しいことをしたいと考える人は、ヴィジュアル系には行かないのでは……と思ってしまうんですよ。

吉田:実は元ヴィジュアル系バンドマンや関係者がアイドル運営や楽曲制作をやっているケースは多いんです。アイドルの方に自由さを感じているのか、他にはないことをやろうというヴィジュアル系魂を持った人が増えてきている感はありますね。

浅井:今ヴィジュアル系シーンで、新しいことをやってお客さんが入るなら、皆やっていると思うんです。ここ10年くらいで、新しいことをやって成功したのはゴールデンボンバーくらいで、新しいことをやって上手く行っているケースは少ないですよね。

そうなると、皆成功しているバンドに影響されていって、その結果「どこかで見たようなバンド」になる。個性が出てくるとしたらボーカルの声や顔、キャラクターとMC、くらいしか差が見つからなくなった。

神谷:例えばPOIDOLの綾瀬ナナさんや、まみれたの伐さんはライブで踊ったりしているじゃないですか。そういったパフォーマンスで他と差別化を図ろうとしている印象もありますね。お二人ともダンスという「自身のルーツの中にあるもの」で勝負されているんです。

藤谷:極端なことをいうと、ヴィジュアル系って世間から見たら、ニッチなジャンルになっている。そのコップの中の流行りにステータスを全部振ったとしても、参照元以上にブレイクすることは少ないのではと思ってしまいます。

SNSがあればメディアは不要?

神谷:最近僕のところに来るマシュマロの(※5)メッセージで、気になる意見があったんです。

投稿者の方の好きなバンドは、「雑誌とかテレビに取材される気なんかまったくない」と。さらには「広告費を払ってメディアに載るくらいなら、SNSやYouTubeで直接繋がったほうが早いと考えている」という投稿をいただきました。

もしかしたら20代くらいのスマホやSNSが一番身近なメディアであるバンドの人は、雑誌などのこれまでを作ったメディアの必然性を感じていないのかもしれないと思ったんです。

※5 匿名のメッセージ、質問を受け付けるサービス。AIによってネガティブなメッセージは当人に届かないというシステムが売り。

吉田:実際にあるバンドマンから「雑誌に興味ないです」と言われたことはあります。90年代初頭とかだと、例えば黒夢なんか、雑誌で1ページの取材でも名古屋から車で飛んで来てましたもんね。雑誌としては悲しきかな……。

藤谷:先程のR指定のマモさんの、髪の毛云々の話も全部バンド〜SNS〜ファンで完結してますから、メディアの入る余地がない話ですよね。

浅井:それはヴィジュアル系に限ったことではなくて、ファンとアーティストの間にメディアがあるという時代ではとっくになくなっている。例えば、lynch.がアルバムを出すと葉月さんがツイッターで全曲解説を始めるでしょ。それを見た時「聞くことなくなっちゃうじゃん!」って思いましたよ(笑)。

他にもバンドをゲストに呼んで、ラジオでフランクに語る……みたいなことも、今はツイキャスやニコ生でやっちゃいますしね。じゃあラジオとニコ生の違いといえば、ニコ生は基本的にファンしか見ないものなので、新規ファンを獲得するのは非常に難しい。ツイッターもそうですよね。雑誌やメディアには違う効果があるということを武器にするしかない。

吉田:今年ゴールデンボンバーの鬼龍院翔さんに「ROCK AND READ」へ出てもらったんですけど、約7年ぶりの登場だったんですよ。その間ずっと口説き倒していて、ようやく出てくれた。そしたら、やっぱり読者からの反響がすごかったですね。

藤谷:きっとファンの人も求めていたんでしょうね、SNSやブログではない、メディアを通した言葉を。先日も己龍のTV出演には大きな反響がありましたし、メディアならではの魅力の引き出し方や宣伝効果はあると思うんですよ。

神谷:ゴールデンボンバーの歌広場さんに取材したときにも「ヴィジュアル系を守るためには、大きくしていくには、ジャンルの外にいって活動していくことも大事」という話はされていましたね。外に出かけて伝えていく行動がジャンルを大きくするかもです。

浅井:近年ヴィジュアル系の傾向として、無料ライブがすごく増えましたよね。その中でも無料ライブの権化みたいなバンドがいるんですよ。

藤谷:えんそくですね。

浅井:O-WESTで1週間無料ライブなんてバカなことをやったという(笑)。

藤谷:今年彼らに取材したときに、ついつい「財源は?」と聞いてしまいましたね。それに忘れがちですが、7日連続で毎日ライブしているという時点で、ちょっと狂ってますからね。すごいライブバンドですよ。

浅井:あの心意気はすごい。でも、ああいうイベントもメンバーがツイッターで告知したところで、結局その波及範囲も限られてくる。無料ライブはプロモーションのためにやるものだから、とにかく、メディアでもなんでも使ってバンバン宣伝して、一見さんを呼ばないと意味がない。

藤谷:さすがに「O-WEST1週間」はインパクトあったので、宣伝効果はあったと思うのですが、単なる「無料ライブ」だと記憶に引っかからずに「あれ? もう終わってたんだ」みたいなケースも少なからずありますね。

ちなみに今ちょっと調べたら、1月から関西のてんさい。というバンドが全国5箇所で無料ワンマンツアーを、2月25日に0.1gの誤算が新宿BLAZEで無料ワンマンライブを行いますね。これを読んでいる人は気になったらチェックしてみてください。

浅井:無料ワンマン流行りといっても、チケット代って3000〜4000円くらいですよね。どうしても出せない金額じゃないし、まず「行きたい」という気持ちにさせることも大事ですよね。

神谷:メディアに求められている役割の一つで言うと、曲や音楽の話をすることだと思います。

忌野清志郎さんが2009年に出した「ロックで独立する方法」という本の中で既に、音楽が統計の話題にすり替わっている状況に対して問題提起をしています。GLAYのライブに何十万人集まったとか、B’zのベストアルバムのセールスがどうとかいう話は音楽の話ではないということです。

ヴィジュアル系もキャパやセールスだけをもって勢いがある無しを見るのは、統計の話題です。