細田守監督『バケモノの子』©2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS

いま、王道エンターテインメント映画を作る意義

――過去の作品に貫かれている「家族」というテーマに限らず、『バケモノの子』にはこれまでの細田作品のエッセンスがすべて詰まっているなと感じました。『時をかける少女』で描かれた高校生の甘く切ない青春群像は、九太と楓の掛け合いの中に確かに受け継がれていましたし、熊徹たちの格闘場面では、『サマーウォーズ』で描かれたキングカズマとラブマシーンの激しいアクションシーンがフラッシュバックしました。

齋藤:なるほど、エンターテインメントの全部盛りのような作品ということなのでしょうか(笑)。でも、それはあながち間違ってはいません。細田監督が本企画を立ち上げる際に掲げたもうひとつのチャレンジに、「子どもと大人が一緒に楽しめる夏のアニメーション映画の王道を目指したい」ということがありました。

――そう言われると、まさしく『バケモノの子』は王道アニメーション映画に仕上がっていますね。

齋藤:これまでも夏のアニメ-ション映画には、「少年が不思議なものや世界と出会って冒険をし、ひと皮むけて、大人になる」という王道のシナリオがありました。そこで私たちも、この暑い夏に爽やかでスカッとしたアクションをふんだんに盛り込んだアニメーション映画にチャレンジしてみようと考えたのです。これまでの細田作品にも言えることですが、最近の日本映画には女性を主人公とする作品が多いように思えます。そんな中で、少年を主人公にした新たな王道に挑戦することには大いに意義があると思うのです。

――ストーリーだけではなく、作中に登場する土地にも、これまでの作品との違いを感じました。過去の細田作品は、どちらかと言えば田舎を舞台とすることが多いイメージでしたが、今作では都会の象徴である渋谷を舞台としていますね。

齋藤:渋谷では今も2020年の東京オリンピックに向けて都市開発が行われていたりと、「常に変化を肯定する街」というイメージがあります。そんな変化から生じるバイタリティーやダイナミズムこそが新しい文化や価値観を絶え間なく生み出し続けるのでしょう。そんな意味では、本作のテーマである「成長」と渋谷の「変化」は、まさに同義なのだと思いますし、『バケモノの子』の舞台は渋谷以外にはあり得なかったと思っています。

細田守監督『バケモノの子』©2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS

キャラクターに命を吹き込む豪華キャスト陣との出会い

――細田作品を見ていると、キャラクターの顔がキャストの方々にそっくりでいつも驚かされます。今回も熊徹役の役所広司さんや、百秋坊役のリリー・フランキーさんなど、豪華俳優陣が一同に会しましたが、どのような基準でキャスティングをされたのでしょうか。

齋藤:キャスティングの際には「映画の人物と共鳴する魂を持った方と出会えるまで、あらゆる可能性を探らせていただく」という姿勢を大切にしています。その手段はオーディションなど、さまざまですが、基本的にこの姿勢は『時をかける少女』のころから一貫していると思います。

――そんな妥協のない姿勢が、キャラクターとキャストの高いシンクロを生んでいるのですね。

齋藤:「映画の登場人物の顔とキャストのみなさんの顔が似て見える」という声や、「もしかしたら当て書きをしているのでは?」という声は、前作、本作とよく耳にします。それこそが、映画の登場人物とキャストのみなさんの魂が共鳴し合っている証だと思うのです。たとえば、熊徹のチャーミングなところやドンッと心の幹が太いところなどは、役所広司さんご自身が持つ魅力や本質にも通じているのではないでしょうか。