人気・実力を兼ね備えた俳優の山田孝之がプロデューサーに徹し、「人間の善と悪」という骨太なテーマに迫った野心作『デイアンドナイト』が1月26日から全国公開される。阿部進之介、安藤政信、小西真奈美ら実力派俳優が顔をそろえた本作で、過酷な運命を背負いながら、児童養護施設で暮らす少女・大野奈々を演じたのが清原果耶。NHK連続テレビ小説「あさが来た」(15~16)での鮮烈なデビュー以来、映画『3月のライオン 前編/後編』2部作(17)など、数々の作品で活躍する期待の若手女優だ。難役に挑んだ本作の舞台裏や作品を通して感じたことを聞いた。
-オーディションで出演が決まったそうですが、オーディションに臨んだときのお気持ちは?
実は、奈々という役があまりつかめていなかったんです。事前に台本を頂いたので、迷いながらも、私なりにお芝居のプランを考えて臨みましたが、「どうでしたか?」と聞かれても、「読んではみましたが…」という感想しか出てこないぐらいで…。ただ、「絶対にこの役を演じたい!」という強い思いだけは、はっきりしていました。
-役がつかめていないのに、「この役を演じたい!」と思った理由は?
何となくですが、奈々にシンパシーを感じたんです。今回改めて、オーディションのときに頂いた台本を見てみたら、「大野奈々」という役名の隣に「私が演じる!」と、ものすごい勢いで書いてありました(笑)。それほど私は、この役に何か感じるものがあったんだなと。
-役がつかめない感覚は、撮影に入ってからも変わらずにありましたか。
何が正解なのか分からないまま演じていました。でも、撮影の後半で山田さんと対談させていただく機会があったんですが、そのときに「清原さん自身が奈々に見える」という言葉を頂き、とても励まされました。恐らく、撮影当時に私が抱えていた思春期ならではの感情と、奈々の不安定な気持ちが重なったからだと思います。それをきっかけに、考え過ぎず、私の思うままにお芝居をさせてもらおうという気持ちになることができました。
-撮影中、山田さんや藤井道人監督、主演の阿部進之介さんからアドバイスはありましたか。
アドバイスを頂くというより、私が思い切り演じて、それを皆さんが受け止めてくださったという印象です。例えば、お芝居をしてみて、私がハマらなかったなと感じたときに、その雰囲気をくみ取った監督や山田さんが「こうやってみるのもいいんじゃない?」と言葉を掛けてくださって、そこから私も考え直してお芝居をする…といった感じで。阿部さんも、とても優しく、私のお芝居を受け止めてくださいました。
-奈々は、過酷な運命を背負いながらも、物語の中では希望になる存在でもあり、とても難しい役です。演じる上で心掛けたことは?
とにかく台本を読み込んで、自分が持っている最大の力で役を理解するように心掛けました。その上で、撮影現場の雰囲気を感じ取るにつれて、お芝居がしやすくなっていった印象です。ただ、現場ではとにかく必死で、自分のことでいっぱいいっぱいでした。いろいろとご迷惑もお掛けしましたが、無事に演じ切ることができたのは、スタッフやキャストの皆さんのおかげです。
-主題歌「気まぐれ雲」も歌っていますね。
私は音楽も大好きなので、「主題歌を担当する」と聞いたときは、とてもうれしかったです。レコーディングまでの期間、ボイストレーニングに通ったり、歌詞を書き出したり、自分なりに準備をして臨みました。歌を作ってくださったRADWIMPSの野田洋次郎さんから、「『奈々の未来がこうであってほしい』という願いを込めた」というお話も伺ったので、そういう心構えで準備をしました。ただ、いざレコーディングをしてみたら、思っていた以上に難しくて…(苦笑)。当日は山田さんはじめスタッフの皆さんが温かく見守ってくださったおかげで、なんとか無事に終えることができました。こういう機会を与えてくださった皆さんに、心から感謝しています。
-「人間の善と悪」というテーマについては、奈々という役を演じてどんなふうに感じましたか。
完成した映画を見終わった後、言葉が出てきませんでした。本当に深いテーマだなと…。自分の中でも善と悪はその時々で変わりますし、感情や感性で左右される部分もあるでしょうから…。言葉が出てこなかったのは、今の私の経験値では「これが善、これが悪」と言い切ることができないからなんだろうと。北村(健一/安藤政信)さんのように法に触れることはよくないと思いますが、私も北村さんの立場になってみたら、どうするか分かりませんし…。ただ、そういうふうに、自分と相いれない相手の立場に立って考えてみることは大事だと思います。
-藤井監督は「この作品で描きたかったものの一つが“血のつながらない家族の愛”」とおっしゃっています。最近は血のつながらない家族を描く作品が増えてきていますし、奈々も養護施設で血のつながらない家族と一緒に生きてきた少女です。血のつながらない家族については、どんなことを感じていますか。
難しい問題だと思います。実際にその立場にいる方たちからしてみれば、私に自分たちの気持ちが理解できるはずはない、と思われてしまうかもしれませんから…。ただ、血がつながらなくても、大切にし合えて、互いに思いやれる相手であれば、「家族」と名乗るのは悪いことではないと思っています。
-清原さんは現在16歳だそうですが、お話を伺っていると物事を深く考える姿勢に驚かされます。この作品の他にも、これまでドラマ「透明なゆりかご」(18)や映画『3月のライオン 前編/後編』(17)などで難しい役を演じてきたと思いますが、そういう作品を通してご自身の視野が広がった部分はありますか。
あります。作品によって考えることも、感じることも違いますが、この作品も含めてここ最近は生命や生きることをテーマにした作品に参加させていただく機会が多く、いろいろと考え直すきっかけをいただきました。おかげで、生きることや日常の出来事など、当たり前だと思っていることがそうではないんだなと気付くことができました。だから、そういったことを考え続けながら、充実した日々を送れるようにしたいな…と今は思っています。
(取材・文/井上健一)
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