『アンナ・カレーニナ』稽古場風景 長田佳世とマイレン・トレウバエフ 『アンナ・カレーニナ』稽古場風景 長田佳世とマイレン・トレウバエフ

ボリス・エイフマンの『アンナ・カレーニナ』が、新国立劇場バレエ団によって2年ぶりに再演される。ロシアの文豪トルストイの名作を、身体表現の限りを尽くし、主人公たちの心理状況を舞踊作品の中に具象化させたエイフマンの代表作である。公演を間近に控え、白熱した稽古場の様子を取材した。

新国立劇場バレエ「アンナ・カレーニナ」チケット情報

稽古場では全幕を通してのリハーサルが行われていた。アンナに長田佳世、ヴロンスキーに厚地康雄、カレーニンにマイレン・トレウバエフと、初役のキャストたちの、迫力と繊細さが織り込まれた動きに驚かされた。パ・ド・ドゥではアクロバティックなリフトがふんだんに繰り広げられ、時にはベッドのポールを使ってバランスを取ったり、アンナがカレーニンの足を伝って着地したりと、見どころが満載だ。ソリストを含むアンサンブルは、ダンサーそれぞれに異なる動きが振り付けられ、舞台の背景にとどまらない。アンナたちが破滅に向かう中で、強烈な象徴となってアピールしていく。2幕冒頭の「士官クラブ」のシーンでは、酔っ払いたちが椅子を用いたユニークな踊りで、葛藤に満ちたドラマを和ませる。

エイフマン・カンパニーから招聘され、初演から群舞を指導しているオレグ・パラードニクに、稽古を重ねるダンサーたちについて話を訊いた。「エイフマンの作品は、音楽の中に動きが凝縮された、現代バレエです。新国立劇場のダンサーたちは、伝統的なクラシックバレエのメソッドで育ち、静止のポーズに慣れているので、様々な細かい動きにとても苦労しています。また、舞台で感情的な表現をわかってもらうためには、自分を抑制しないで、思い切った表情で観客に伝えて欲しいと思います。新国立劇場のダンサーたちは、技術的な能力が非常に高いので、エイフマンの作品に対する理解力に期待しており、舞台本番まで残り少ない日々ですが、作品を完成させていきます」。

同劇場が、エイフマンの作品を初演するにあたって、多数候補に挙がったが、原作が有名で、日本の観客にも馴染み深い、チャイコフスキーの音楽に紡がれた『アンナ・カレーニナ』が選ばれた。本番では、工夫を凝らした照明で暗さを感じる場面もあるが、見落としてしまいがちなつま先に至るまでの詳細な動きに、ぜひ目を留めて欲しい。恋に身を焦がし居場所を無くしたアンナが自由を求めて、死へと身を投じるラストシーンは圧巻で、忘れ難い場面として観客の心に刻まれるはず。日本のダンサーたちが贈るエイフマンの芸術を堪能して欲しい。公演は3月16日(金)から20日(火・祝)まで新国立劇場中劇場で開催する。チケットは発売中。

取材・文 舞踊ジャーナリスト:高橋恭子