「奇跡」という言葉に回収されない、必然にあふれた多幸感

自身のソングランディングの進化、バンドメンバーとの豊かで濃密なリレーションシップの構築、ファンとのコミュニケーションの深化――これらのどれが欠けても、この日のライブは成立しなかったでしょう。

どれも音楽においてめちゃめちゃシンプルなことではあります。逆に言うと、そういう根源的なひとつひとつに向き合い、突き詰めつづけてきたからこそ、この日のライブが生まれたのだと思います。

そして、こういうライブをするためには、あのどこまでも飾らない『スキマスイッチ』というアルバムがやはり必要だったのだと、ライブを観て確信しました。

飾らないということは、よけいな装飾がないということです。どこまでも純度の高い音楽だけが詰まっているアルバムに、自らの名前を冠したふたり。つまり、「スキマスイッチにしか鳴らせない音楽はこれなのだ」という宣誓です。その飾らない潔さはそのまま、この日のステージにも色濃く反映されていました。

いいライブを観たとき、ひとは「神がかり的なステージだった」「奇跡の一夜だった」などと、有り体の思考停止ワードを用いて消化した気になってしまいがちです。でも、この日のスキマスイッチのライブはそういう言葉でまとめられるようなものでは決してなく、いいライブになりうる意味と意義と理由にあふれまくったライブでした。それがなによりすばらしかった。

最後に『SF』という曲について書きます。アルバム『スキマスイッチ』のラストを飾り、今回のツアーで必ず最後に演奏されていた曲です。

この曲で彼らは、自身の無力さを嘆きます。強い力で君を守ることもできないし、時間を巻き戻すこともできない。でも、君の涙を僕の歌で止めることができるかもしれない。だから僕はギターを掻き鳴らして歌う――。ファンや音楽に対する誓いのような、渾身のロックバラードです。