かつての名作漫画が、他の漫画家によってリメイクされることは珍しくありません。ある種の便乗商法とも言えますが、駄作や凡作に終わっては、リメイクした漫画家や企画した人間に批判が集まることを考えれば、冒険の側面もあるでしょう。また名作に思い入れのある漫画家がリメイクを手がけることで、さらなる傑作が生み出されることもあります。そこでリメイクされた作品を取り上げてみたいと思います。

今回取り上げるのは『あんみつ姫』です。
まず光文社の月刊雑誌「少女」に1949年から1954年まで連載された倉金章介氏による作品があります。おそらく江戸の中頃らしい時代を舞台に、あまから国(藩?)のお姫様である、あんみつ姫を主人公としています。父親はあわのだんごの守(かみ)、小姓は甘栗の助、家老はあべかわ彦左エ門、門番のせんべい、腰元に至っては、あんこ、しるこ、だんご、かのこ、きなこ、そしておはぎの局(つぼね)と、登場するキャラクターはお菓子の名前ばかりです。思い浮かべるだけでよだれが湧きそうですが、連載は敗戦からいくらも経っていない時代なので、その頃の読者である子供達は一層その思いが強かったのかもしれません。

ただ母親の名前が渋茶(しぶちゃ)となっているんですよね。おてんばなあんみつ姫に、何かとお小言する厳しい立場なので、その名前になったのかなと思います。そんなあんみつ姫ですから、こっそりお城を抜け出して城下町に遊びに行くのはもちろんのこと、何かと騒ぎを起こします。巻き込まれる周囲の人達には大きな迷惑なのですが、その辺りはあんみつ姫の人柄もあってか、なんとなくハッピーエンドで終わります。
この倉金章介版『あんみつ姫』は大人気となり、何度も映画化やドラマ化されています。さすがに古い作品を見た人は少ないと思いますが、1983年の小泉今日子主演のテレビドラマを覚えている人はいるのではないでしょうか。最近でこそ元気な女の子が活躍する作品で、複数メディア化されているものが多いですが、この『あんみつ姫』はそれらの作品の起点にあたるものの一つになるのかもしれません。それでも肝心の漫画は、連載が古いこともあって、入手は非常に困難です。講談社漫画文庫や二見書房サラ文庫から発売されていましたが、既に絶版となっています。地道に古本屋を回るか、復刻の呼びかけに賛同するくらいになると思います。

この『あんみつ姫』が1986年に講談社の「なかよし」などで、竹本泉氏によりリメイクされました。『あおいちゃんパニック! 』や『さよりなパラレル』など、竹本作品には元気な女の子のキャラクターがたくさん出てくるので、リメイクにはピッタリだったと思います。

竹本版『あんみつ姫』は、大きな設定はそのままですが、描かれるキャラクターは大きく異なっています。特に小さくてつぶらなキャラクターの瞳は、ぱっちり大きく現代風になってしまいました。似ているところと言えば、あんみつ姫ですと星型の髪飾りくらいでしょうか。でもおてんばではちゃめちゃな性格はそのままです。このリメイクのきっかけになったのは、同時期にフジテレビ系列でアニメ化されたことのようです。キャラクターの外見の特徴は、むしろアニメの方が倉金版『あんみつ姫』に近いものがあります。

けれども竹本版『あんみつ姫』で嬉しいのが、あんみつ姫の家庭教師であるカステラ夫人です。名前で想像がつくかもしれませんが、外国人の女性です。倉金版のカステラ夫人は『まぁ外国人だな』って程度にしか思いません。しかし竹本版のカステラ夫人は『ああ、美人だなー』とはっきり思えます。あんみつ姫の父親であるあわのだんごの守も、初見で「美人」と思うくらいですし、仮装コンクールの賞品がカステラ夫人からのキスとなると、男性陣が大騒ぎになるくらいです。カステラ夫人の登場シーンにはインパクトがありましたが、その後もいろんな場面で活躍してくれます。才色兼備の女性であって、家庭的なこともバッチリ。しかもあんみつ姫に振り回されることのない数少ない登場人物のひとりです。カステラ夫人を主人公にしたストーリーも読みたいところですが、さすがにそれは望み過ぎかもしれませんね。

竹本版『あんみつ姫』は、講談社のなかよしワイドコミックスで発売、その後に宙出版からミッシィコミックスとして再販されましたが、どちらも今手に入れるのはちょっと難しそうです。ただし『あんみつ姫 完全版』として幻冬舎のバーズコミックススペシャルが発売されています。こちらは現在でも入手は容易です。『今から読みたい』と思う方には、ぜひこちらをお勧めしたいと思います。そして余力があれば、倉金章介版『あんみつ姫』もぜひ手に取ってみてください。 

あがた・せい 約10年の証券会社勤務を経て、フリーライターへ転身。金融・投資関連からエンタメ・サブカルチャーと様々に活動している。漫画は少年誌、青年誌を中心に幅広く読む中で、4コマ誌に大きく興味あり。大作や名作のみならず、機会があれば迷作・珍作も紹介していきたい。