戦後70年の夏に問う、「いのち」の物語

2015.7.24 17:45配信
オペラ『いのち』 撮影:寺司正彦/提供:新国立劇場 オペラ『いのち』 撮影:寺司正彦/提供:新国立劇場

新国立劇場の「地域招聘公演」は、全国各地で生み出された舞台作品を紹介する事業で、地方の優れた劇場文化に光を当て、「地方創生」を現場レベルで実践する意義ある取り組みだ。今年は7月25(土)、26日(日)の2日間、原爆投下を主題にしたオペラ「いのち」(作曲・錦かよ子)が上演される。長崎県オペラ協会が2013年に初演した作品。

オペラ『いのち』チケット情報

注目のひとつが、当公演の指揮者・星出豊が台本構成を手がけていること(演出も)。日本を代表するオペラ指揮者である星出は、長崎県オペラ協会の初代会長だった声楽家・柴田睦陸に請われて1986年から協会の活動に関わってきた。その約30年の交流が結実したのがこの作品。「台本」に「構成」の二文字が添えられているのは、長崎の人々との対話や取材の中で星出が受け取った現実の声で書かれているから。作りものではない、生の言葉が埋め込まれた作品なのだ。

物語は、原爆症で逝った妻・夏子の墓参に訪れた老医師・松尾の人生を振り返る形で進む。描かれるのは声高な反戦ではない。福岡に出かけていて原爆を免れた松尾の、一種のサバイバーズ・ギルト(自分だけが助かったという罪の意識)、被爆者である自分は愛する人を幸せにできないと思い込む夏子の心の葛藤…。戦争や大量殺戮の悲劇は、つまるところ人間一人ひとりの等身大の悲劇として発現するからこそ悲劇なのだということに、あらためて気づく。

そんなシリアスな社会的なテーマの一方で、方言はもちろん、長崎のわらべ歌やご当地自慢、はたまた長崎を舞台にしたプッチーニのオペラ「蝶々夫人」の一節が登場するなど、地方色豊かなエンタテインメント性が盛り込まれているのも楽しい。

作曲者の錦かよ子は愛知芸大で石井歓に師事。すでに数曲のオペラを発表するなど、拠点の三重県を中心に他分野で活動している。「いのち」は聴きやすい調的な響きを軸にした音楽で、けっして難解な現代作品ではない。第2幕の原爆投下シーンでも過度に激しく厳しい表現は用いず、そのぶん、聴く側の耳とイマジネーションで脳内に「リアル」を創る余地を与えてくれる。

出演は長崎県オペラ協会所属の歌手を中心とする、初演時とほぼ同じメンバー。2管編成の管弦楽はOMURA室内合奏団。さらに同協会の合唱団と児童合唱団、かとうフィーリングアートバレエと、長崎勢による「引っ越し公演」だ。全3幕。2回の休憩を含めた上映時間は約2時間30分。

文:宮本明

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