『夫婦漫才』(画像左から)大地真央、中村梅雀 『夫婦漫才』(画像左から)大地真央、中村梅雀

妻として漫才師として明るく生きる主人公の信子に大地真央、その夫の伸郎に中村梅雀という最強コンビで、2年前の初演が大好評を博した舞台『夫婦漫才』。人気俳優・豊川悦司の原作はそのままに、個性派俳優として活躍中の池田テツヒロが脚本を手掛けた本作。笑いと涙たっぷりの世界を緩急自在に描き出すラサール石井の演出が、川崎麻世や村上ショージ、竹内都子、正司花江、吉沢京子ら手練の共演者とともに舞台を盛り上げる。2月7日、明治座にて初日を目前に控えたゲネプロに足を運んだ。

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物語は平成15年の道頓堀の橋の上から始まる。年老いた信子(大地)と伸郎(梅雀)は、賑やかな街の様子を眺めながら、「変わったなぁ、大阪の街も……」と呟く。すぐに時代は昭和7年、信子が生まれた日にさかのぼる。幼なじみとして育ったふたりだったが、戦後6年経ってようやく伸郎がシベリアから戻り、晴れて夫婦に。それからは3人の子どもを抱え、昼も夜も働く信子だったが、伸郎は定職にもつかずフラフラ。くちゲンカも多くなるが、明るい信子と伸郎の掛け合いは、自然と夫婦漫才のようになってしまう。評判が評判をよび、ついに芸能プロダクションがスカウトに訪れて……。

“笑い”や“漫才”が本作の横糸だとすれば、縦糸は“夫婦の愛”と“高度成長期”。舞台は随所に笑いをまぶしながらも、信子と伸郎の人生を丁寧に描いてゆく。大地は19歳でキャバレー勤めをしているシーンから登場。冒頭の、高齢となった細い声の信子から一転、美人だが負けん気の強い下町っ子として明るいオーラを放つ。時代は昭和30年代~60年代まで巡り、夫婦には何度も危機が訪れるが、いつも伸郎を支えてきたのは信子のカラッとした強さだ。大地はコメディエンヌぶりをいかんなく発揮しつつ、シリアスな場面ではしみじみと演じて飽きさせない。時代に合わせて大地がこまめに変えるヘアスタイルとファッションも楽しい。

伸郎役の梅雀は、不器用で頼りないが、どうにも憎めない男を演じて見事。それはセリフ以外の表情で、信子を一途に愛する夫であり、“漫才”に取りつかれた男であり、さらには戦争の影をぬぐい切れない男であることが、観る側にしっかりと伝わるからだろう。とびきりの美人・信子との夫婦ぶりが、不思議とハマっているから面白い。

そのほか、信子に横恋慕する平田役・川崎のコミカルな二枚目ぶり、伸郎の母親で、信子を温かく見守る和子役・竹内の深い愛情が印象的。村上や正司、吉沢ら、舞台にいるだけで時代の匂いを漂わせる役者陣にも、改めてうならされる。元宝塚と現スーパー・エキセントリック・シアターそれぞれの演技巧者、未沙のえると野添義弘に加え、上杉祥三、福本伸一、弘中麻紀ら、小劇場出身の実力派がしっかりと脇を固めているのも頼もしい。

チケットぴあでは、各公演の前日17時まで当日引換券発売中。

取材・文:佐藤さくら

※川崎麻世の「崎」は立つ崎が正式表記