アマゾンでは販売を開始したが、クラウドファンディングの出資者には届いていない360度カメラ「Wunder360 S1」

ものづくり系のクラウドファンディングでは遅れはつきもの。予定より半年、1年遅れてようやく出資した製品が届くという事も珍しくない。製品製造の過程では思わぬトラブルはつきもの。プロトタイプがうまく動いた、熱暴走で失敗した……といったことも、一緒に楽しめると思えばそれも醍醐味だ。しかし、すでに量産を開始し、アマゾンやe-bayで販売しているにもかかわらず、クラウドファンディングの出資者には製品が届いていない、となると話は別だ。米クラウドファンディングサイト、Indiegogoで「Wunder360」が進めている360度カメラのプロジェクト「Wunder360 S1」でこうしたトラブルが起きている。

プロジェクトを運営しているのは中国・深センのShenzhen Evomotionという会社だ。すでに360度カメラの実績はあり、初号機「Wunder360 C1」は199ドル(米ドル、以下同)で販売している。「Wunder360 S1」は、この後継機。「誰でも3Dモデルが簡単に作れる、手のひらサイズの超多機能360°カメラ」と題し、2018年の7月にIndiegogoで出資の募集を開始した。

アクセサリー込みで150ドル前後という価格も魅力で、目標調額の2万ドルを開始直後の30分で達成。2月現在で8200名から90万4000ドル、1億円近い9900万円の資金の調達に成功している。Indiegogo注目のプロジェクトとしてTeam Favorites Collectionにも選ばれ、Indiegogoのトップページで見かけた人も多いだろう。CES 2018にも出展し、注目を集めた。

18年の8月にはテストを終え、9月に量産開始。10月にはアメリカ・ヨーロッパの出資者向けに発送し、11月にはそれ以外のエリア向けに発送する予定だった。しかし、今年2月現在、製品は出資者に届いていない。一方、18年12月、日本のクラウドファンディングサイト「Makuake」でも出資を募った。これはすでにプロジェクトも終了し出資者に製品が届いた。さらに日、米両国のアマゾンやe-bayでも12月から製品を販売しており、現在も在庫がある状態だ。ところが最も肝心のIndiegogoの出資者だけは置いてけぼり。製品の発送すら始まっていない。Wunder360 S1ページのコメント欄には、こうした状況に怒った出資者から「詐欺だ」「返金しろ」という書き込みであふれている。

Wunder360が11月に投稿した出資者向けメッセージでは、本体はすでに完成しているものの、付属アクセサリーの防水ケースでトラブルが発生。新たな防水ケースを製造しているが、これに時間がかかっているため発送できない状態だとしていた。しかし、出資者からの要望もあり、Shenzhen Evomotionが10万ドルの追加送料を負担し、本体のみ先に発送、アクセサリは完成次第別便で送ると発表。本体のみだが1月上旬にも発送を開始するはずだった。しかし出資者からは発送の連絡が来たという報告はない。他のサイトではすでに販売しているだけに、なぜこのような事態になっているのか。事情を聞くべく取材を試みたが、中国では春節休みに突入していることもあってなしのつぶてだった。

Indiegogo側では、BCNの取材に対して「利用規約では、Indiegogoの出資者が特典(製品など)を受け取るまで、キャンペーンの所有者が他のサイトで商品を提供することを禁止している」と回答。さらに「IndiegogoのTrust&Safetyチームで規約違反を確認したため、出資の募集を一時凍結し、Wunder360に対して、出資者への詳細情報の提供と製品配送のスケジュールの提供を求めた」とした。このため、現在Wunder360 S1については新たな出資ができない状態になっている。

出資者からは「Indiegogoは製品の販売サイトではないから、発送の遅れは理解する。しかし、その状況報告がないのが問題だ」との指摘がいくつか見られた。実際、プロジェクトが順調に進んでいた9月までは頻繁に進捗報告がなされていたが、発送の遅れが深刻化していこうは報告も滞りがち。18年は11月23日のメッセージを最後に12月は進捗報告がゼロ。今年に入って1月2日に最後の投稿があっただけで、以降の報告はない。こうしたコミュニケーションの欠如も、出資者の怒りを増幅しているようだ。春節休暇明けの2月11日以降、事態が好転する事を祈りたい。(BCN・道越一郎)