(C) Marie-Julie Maille / Why Not Productions

 喜劇王チャールズ・チャプリンの“遺体誘拐事件”を描いた『チャップリンからの贈りもの』が公開中だ。

 チャプリンが亡くなったのは1977年のクリスマスのこと。その時、日本では彼の生涯を描いたドキュメンタリー映画『放浪紳士チャーリー』(76)が上映されており、場内放送でチャプリンの死を知った観客は、その知らせに涙しながら、感謝の意を込めてスクリーンに向かって拍手を送った。

 それからわずか2カ月後、スイス、レマン湖畔の墓地からチャプリンの遺体が何者かによって盗まれた。本作では、監督のグザヴィエ・ボーヴォワが、実際の事件を基に脚本を書き、貧しい移民のエディ(ブノワ・ポールヴールド)とオスマン(ロシュディ・ゼム)の犯行を、ユーモアとペーソスを交えて描いている。

 金に困ったエディがオスマンに“誘拐の計画”を持ち掛けるシーンが傑作だ。「死んだ友だちに金を借りよう」「一体誰にだ?」「チャプリンだよ! 彼は放浪者の友だち、移民の友だち、そして貧乏人の友だちだったじゃないか」。随分身勝手で強引な言い分だが、そう思わせるものをチャプリンの映画は描いていたということ。

 それを象徴するかのように、『霊泉』(17)『黄金狂時代』(25)『サーカス』(28)『街の灯』(31)『モダン・タイムス』(36)『ライムライト』(52)といった本物のチャプリン映画からの引用や比喩も見られるが、“誘拐後”はあたかも天上のチャプリンが楽しんで演出しているかのようなドタバタ劇が繰り広げられていく。

 また、本作の音楽は『シェルブールの雨傘』(64)などの名匠ミシェル・ルグランが担当。オリジナル曲のほか、『ライムライト』の「テリーのテーマ」をモチーフにした曲も披露される。ルグランとは縁の深いカトリーヌ・ドヌーブとマルチェロ・マストロヤンニの娘であるキアラ・マストロヤンニの助演も見どころの一つ。

 本作は、実話を映画用の“いい話”として脚色した点が功を奏している。映画を見終わった後、いい気持ちで劇場を後にしたいと思っている人にはお薦めの作品だ。(田中雄二)

*本作のタイトルのように“チャップリン”と表記する場合もあるが、ここでは『記者ハンドブック』新聞用字用語集(共同通信社刊)に基づき、タイトル以外は“チャプリン”と表記している。