ヤフーがIoTのプラットフォームとして公開したアプリ「myThings」

IoT(モノのインターネット)という言葉がさまざまな場所で語らているものの、その実態はまだおぼろげだ。産業用の部品管理などで可能性が期待されているが、コンシューマ領域では「これがIoTだ」といった決定打はまだ出ていない。

そうした中、ヤフーは7月27日、アプリでIoT事業に参入してプラットフォーム化を狙う事業構想を発表した。同日、スマートフォン(スマホ)向けアプリ「myThings」を公表して、iOS用とAndroid用の無償ダウンロードを開始した。

●オープンな「myThings」で垣根を越える

ヤフー執行役員の村上臣CMO(チーフ・モバイル・オフィサー)は、アプリでIoT事業に参入する狙いについて次のように語った。

「2019年に国内のIoTデバイスは9億5600万台になるといわれているが、現状はBluetoothでスマートフォンとつながっているだけ。(IoTの浸透については)まだかなりクエスチョンマークなところがある。スマートフォンは手のひらの中のインターネットを実現したが、IoTはモノ自体がインターネットにつながるので、手のひらの周囲に広がる出来事や人、街などが複雑に絡み合いながらつながっていく。いまのIoT製品は個々で動いていて通信方式もバラバラだが、myThingsというオープンなプラットフォームが、あらゆる垣根を越えていく」。

myThingsのキーワードは「組み合わせ」だ。インターネット上のアプリは、それぞれが単機能であるケースがほとんど。単機能にしないと、それが何のアプリなのかというメッセージがユーザーに伝わりにくいからだ。コンシューマ分野のIoT機器でも、そうした単機能のものが次々と出てくることが予想されている。

myThingsは、これら単機能同士のアプリやIoT製品を組み合わせることで新しいサービスを提供していく。ウェブのポータルサイトで成功を収めたヤフーらしい発想といえるだろう。myThingsと連携する既存のウェブサービスは「チャンネル」と呼ばれる。チャンネルの組み合わせによって、ひとつのモノやサービスだけでは味わえない新しい体験をユーザーに提供するという。

●さっそくmyThingsをダウンロードしてみた

さっそくリリースされたmyThingsをダウンロードしてみた。ホーム画面は「スタッフのおすすめ」や「知りたい天気だけがわかる」「忙しくても情報を逃さない」「家族との距離が縮まる」「動画や音楽をもっと楽しく」といった、ユーザーの行動を想定した「特集」ページで構成されている。

たとえば「動画や音楽をもっと楽しく」の中から「リラックスするBGMを選曲しお知らせします」を選ぶ。すると、myThingsのチャンネルのひとつである「YouTube」に音楽がアップされると同時に、自分のスマートフォンに通知してくれる。通知する時間帯や曜日も自分で設定できる。

同じように「家族との距離が縮まる」の中から、「子供部屋の室温が高温になるとお知らせします」を選ぶと、netatmoという室内の温度や湿度などをチェックできるアプリと連携して通知してくれる。「予想最高気温が30度を超えたら通知します」を選ぶと、Yahoo! JAPANの天気情報と連動して通知してくれる。

このように、現状ではまだモノとつながっているサービスが少なく、さまざまなウェブサービス(チャンネル)をひとつにまとめて「お知らせしてくれる」という領域を出ていない。ちなみに、チャンネル数は27日現在、GYAO!やDropbox、Facebook、Evernote、Slackなど29チャンネルである。

●家電メーカーはシャープがファーストパートナー

今後は、IoT機器との連携を増やしていくことがカギになる。ヤフーは、myThingsの発表に合わせて、事業者向けに「myThingsプラットフォーム」をオープンにしていくと発表。事業者はプラットフォーム上に公開されているAPIを活用しながら新製品やサービスの開発が行える。またほかの事業者がそのAPIを活用することで、新しい「組み合わせ」が生まれる。将来的には大手から中小企業、個人までの事業者が、あらゆるAPIを利用できるようにしていくという。

家電メーカーでmyThingsと最初に連携したのはシャープだ。参考出品としてシャープの冷蔵庫と他社の体重計を使ったデモを実施した。体重計で測ったその日の体重が昨日よりも軽かったら、冷蔵庫に近づくと「ご褒美です。ビールが冷えています」と語りかけてくれる。体重計と冷蔵庫が直接つながっているのではなく、myThingsのプラットフォームを介してつながっている。

シャープにとってはオープンなmyThingsを使うことで、自社のネットワークに対応した体重計を自ら作る必要がなくなるし、特定の1社の体重計だけに縛られることもない。企画段階からさまざまなルールを取り決めるための膨大な時間も不要なので、IoT製品やサービスの開発スピードが飛躍的に短縮できるというわけだ。

ほかにも、家のドアのカギに後付けでIoT機器を接続することで、スマートフォンで解錠できる「Akerun」を販売するフォトシンスというベンチャー企業のデモでは、カギが開いたらヒト型ロボットのPepperが「おかえりなさい」と語りかけてくれるデモを実施していた。

myThingsが今後どれだけ普及していくかは未知数だが、ヤフーは来年で会社設立20周年を迎える。ポータルサイトで成功を収めたヤフーの次なる野望がIoT事業であることだけは間違いない。