この作品が転機だった。衝撃の前公演『DOLL』

――前公演『DOLL』から、既存戯曲への挑戦という形が続いていますね。前公演は、閉じられた空間で、閉塞感のあるストーリーという、これまでの劇団ハーベストにはないテイストでした。

加藤 梨里香(かとう りりか・以下 加藤)「劇団としても挑戦でした。結末含め、これまでにない雰囲気の作品だったので。これまでは死を扱っても、前を進む要素があったんですけど、自分たちが死に向かう作品というのはなかったんです。これまでのファンの方々が観て、どう感じられるかも気になったし。やっぱり印象深い、転機になった作品だと思います」

――劇場の雰囲気からして違いましたよね。いつもの劇団ハーベストにある、温かな空気とは違って。

葛岡 有(くずおか ある・以下 葛岡)「これまでの作品は、笑いの要素が強かったと思うんです。でも、今回は芝居を魅せたいねってみんなで話をしました」

高橋「これまで開演前にしていたグッズ販売もしなかったんです。開演前の音楽も、波の音にしたり」

加藤「最初の空気作りから、こだわっていましたね」

加藤 梨里香さん 「座長です!だけど、いつもみんなにいじられてます(笑)。ただ、美しさが必要だと思うので、動きが揃ってなかったら厳しいですよ。オンオフが激しいですね。」
葛岡 有さん 「最年少なので、メンバーのみんなからは妹みたいに可愛がってもらってます。グッズ担当です。」

――これまではオリジナル脚本での公演でしたが、学生演劇でも使われる戯曲で公演を行うわけですよね。比較されることや評価されることに、ある種の怖さは感じませんでしたか?

加藤「そうですね。学生演劇でもやっている作品だからこそ、プロとしてクオリティの低いものを作れない、という怖さもあったし、オリジナル版を観たことがある方々がご覧になるかも…というのもあって。でも、劇団ハーベストだからこそ出来る『DOLL』にしよう、というふうに話をして、突き進みました」

広瀬 咲楽(ひろせ さら・以下 広瀬)「本(戯曲)の力がすごかったんです。そのプレッシャーがありました。どんなに読んでも、解りきっていないんじゃないか?っていう気持ちが付きまとっていて」

――決して単純なストーリーではないですものね。

広瀬「『DOLL』は、実際に起きた少女の心中事件を元にしている作品なんです。読み込んでも、この5人がどうしてこういう結論になったかを理解できなくて。(作者の)如月小春さんの意図を考えて」

川畑「本が難しくて…。でも、如月さんは、もういらっしゃらない(2000年没)。答えが解らない。答えはないのかもしれないけど…」

加藤「結末もすごく考えたんです。普通に読んだら暗くなるところを、劇団ハーベストの良さって何かと考えた時に、ポジティブなイメージを与えることができるんじゃないか、って考えて。最後は明るく終わりたい、と話して」

広瀬 咲楽さん 「音楽担当です。今回も劇中歌を作詞作曲して提供しました。」

――前作、今作と、作品はどうやって選ばれたんですか?

加藤「去年のはじめ、私が座長で山本(萌花。前公演を最後に退団)が主宰になって、ふたりで話し合ったんです。今から新作を書いていただくよりも、既存の戯曲ってやったことないよね、って話して。自分たちでも調べて」

――事前に決まったものではなく、ご自分たちで決めていったんですね。

加藤「みんなで戯曲を調べに行ったり、持ち寄ったりして、いろんなものを読み合わせしたんです。『DOLL』はもともと読んでみたかった作品で」

宮武「最初、ふわっと『ちょっと読んでみる』ぐらいの雰囲気で読んだんです。読み終わって、みんなすごい衝撃を受けて」

前公演「DOLL」
前公演「DOLL」

加藤「でも、一回、やめようか、ってなったんですよ。」

宮武「意見が結構割れたよね。軽い気持ちで出来ないねって。この作品を(劇団)ハーベストがやるのはどうだろう?って」

――そうだったんですね!

高橋「意見結構割れたよね、見終わった後に、暗い気持ちになるよねって」

望月「ほとんどの人が『DOLL』っていう意見だったんですけど、私は違って。それで、討論になったんです。どっちの作品が、本当に魅せたいものなのか。結構、時間がかかった…」

加藤「私たち『DOLL』を選んだ側も、説得しきれなかったんですよ。最終的には多数決で、ってところまで」

宮武「役の分析まで始めていて。行こう行こう!となってたんです。でも、「これでいいのかな?」って。議論が何周もして、結果『DOLL』になったんです」

前公演「DOLL」
前公演「DOLL」