富士フイルム X-T10

ミラーレス一眼の高級化が進んでいる。昨年、5万円台だった平均単価が今年に入って6万円台に突入。さらに、販売台数・金額ともに3か月連続で前年を上回っている。特に、レンズセットで実売10万円を超える高価格帯の製品の販売台数は、この6月で8.8%にものぼり全体の1割近くまで拡大してきた。こうしたカテゴリーでこのところ目立つ動きをした製品がある。発売直後に勢いよく飛び出した富士フイルムの「X-T10」だ。そこで、好調な初速の背景を探った。

BCNランキングで、実売10万円以上のミラーレス一眼(レンズセット)の販売台数ランキングを集計したところ、「X-T10」は、発売日の6月25日を含む6月22日週(22~28日)に販売台数シェア23.7%で、いきなりランキングトップを獲得した。翌6月29日週(6月29日~7月5日)も20.5%でトップシェアを維持し初速は好調だ。実は、発売前の予約分をみても、製品発表が行われた5月18日週(18~24日)の段階で早くも10位にランクイン。発売前からの高い期待がよせられ、発売と同時に垂直立ち上げしたという構図だ。発売から3週目以降は、ライバルのソニーの「α6000」に抜かれ、直近の7月13日週(7月13~19日)は3位に後退したものの、依然2ケタシェアをキープしている。

「X-T10」は、コンパクトデジカメ並みの小さなボディながら、上位モデルの「X-T1」と同じ撮像素子を搭載し、そのほかのスペックもほぼ同レベルという実力派。そのうえ、AF性能を向上させ、動く被写体の撮影にも十分な追随性を発揮する。アナログダイヤルを随所に備え、使い勝手を追求したのも特徴だ。また、新たにオートモード切替レバーを備え、設定に迷ったらオートにしさえすれば、すぐにフルオート撮影ができるのもポイントが高い。

ランキング上位モデルで、「X-T10」とレンズセットの価格が近いのは「α6000」。それぞれ税別10万円台前半だが、「X-T10」の付属レンズは1本で、「α6000」は2本という違いがある。「X-T10」と「α6000」の大きな違いはファインダーだ。「X-T10」には表示タイムラグ0.005秒で236万画素と、高速で高精細な電子ビューファインダーを搭載している。覗いて撮るという、カメラ本来の撮影スタイルにこだわった結果だ。一方、「α6000」も見やすいファインダーを搭載しているものの、画面の細かさという点では144万画素とやや見劣りがする。カメラ本来の機能を重視するなら「X-T10」、レンズ2本が付属するお買い得感を求めるなら「α6000」という選択になるだろう。

一方、ボディの比較で言えば、「X-T10」に近い上位ランキングのカメラは「OM-D E-M5 Mark II」だろう。高精細ファインダーを備え、一眼レフ風のレトロなデザインも共通している。甲乙付けがたいまさにライバルモデルだが、「OM-D E-M5 Mark II」のレンズセット価格は平均10万円台半ばと、「X-T10」よりやや高価だ。しかも、「X-T10」が一回り小さく、軽い。撮影機材一式がコンパクトで、よりカジュアルに撮影できそうなのは「X-T10」だろう。そのほか、フィルムメーカーならではの色再現性の高さと階調表現の豊かさも定評がある。フィルムシミュレーション機能で、「PROVIA」や「VELVIA」といった名フィルムの味をデジタルで再現できるのも楽しい。

現在のカメラ市場は、高級化に伴う平均単価の上昇が続いている。この動きは、スマートフォンの普及と切り離せない。普段の写真をスマホで撮ることは当たり前になった。当然、カメラの位置づけも変わってきている。低価格なコモディティモデルが徐々に姿を消し、よりカメラの機能に優れた一品が好まれる傾向が強くなっている。スマホと真逆のカメラが好まれるようになってきたのだ。特にミラーレス一眼については、カメラとしての基本機能が充実してきたことで、コンパクトで高性能という強みが際立ってきた。一眼レフからの乗り換えも進んでいるとみられ、安さよりも機能という流れもできつつある。そうした現象の象徴的なカメラの一つが、富士フイルムの「X-T10」といえるだろう。

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