政治家ノンフイクション
 

『小泉純一郎―血脈の王朝』


小泉純一郎は今日まで四代続く政治家一族である。この誉れ高き血脈に彩られた小泉王朝を支える飯島秘書官、姉信子らへのインタビューを通して、カリスマ宰相・小泉という男の暗部を描く。四代かけて熟成された小泉家の異様な雰囲気、そして秘書官・飯島の怪人っぷりがおもしろい。ただし、残念ながら、純ちゃんへのインタビューはなし!

 
 

『凡宰伝』


凡人宰相と言われた小渕恵三。でもホント凡人だったのか? そもそも凡人が、どーやって竹下派を引き継いだのよ? ましてや一国の宰相の座をなんで射止めれんのよ? てな視点から、佐野がアプローチしたのがこの一冊。小泉とは違い、小渕さん、きちっと佐野のインタビューに答えてます。記者クラブの慣例を破ってまで答えたのだとか。それがこの本で一番印象に残ってますな。身もフタもないけど、それが一番。

  

『てっぺん野郎―本人も知らなかった石原慎太郎』


読み終えた最初の感想は、慎太郎って中身薄いおっさん、以上である。「冷めたピザ」「真空総理」と言われようが、ブッチホンをガンガンかけまくって、実務をこなした小渕っちの方が男っとこ前と強く感じてしまう。だからでしょうなぁ……500ページ超の割には、薄いぜって感じ。薄い要因はわかってる。慎太郎、あんたのせいだ。佐野といえども、素材がこうだと苦労すんよね。

 
異形の人物ノンフィクション系

『阿片王 満州の夜と霧』


関東軍から国民党までをも篭絡、翻弄、恫喝し、広大な満州にて莫大な闇利権を手中にした“阿片王”里見甫なる怪人物の半生を追う。構想十年といわれる作品でございます。にしても佐野が狙う人間は、偉人ではなく異形の人がなんと多いことか。胡散臭い人が好きなのね。

 

 

『甘粕正彦 乱心の曠野』


満州の表と裏を操った甘粕正彦。彼の人物像とその行動、実績はいたるところで語られているが、本書では佐野が過去の資料を徹底的掘り起こして、人間・甘粕の人間臭い部分を描いているのが面白い。“あーっ、掘り出されちゃったよ、甘粕”“そっとしといたれよ、佐野”ってな感じです。明石家さんまに“キャラ守れよ、甘粕”と叱られること必至。

 
 

『旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三』


戦前・戦中・戦後と日本中を歩き回り、柳田国男亡き後、最大の民俗学者と呼ばれた宮本常一と、宮本をパトロンとして支えた名家・渋沢家の渋沢敬三。宮本の人となりとその業績を追いつつ、高貴な精神で支えた渋沢敬三の人となりと名家・渋沢の戦後における過酷な運命をも追う。大宅荘一ノンフイクション受賞作です

 

 

『怪優伝  三國連太郎・死ぬまで演じつづけること』


昨年11月に刊行された本。正直読んでません。出てたんですね、うっかりしてました。確かに三国連太郎は怪人であり、怪優ですんで、佐野好みでするね。内容は佐野が三国の代表作10本を三国とともに鑑賞しながら取材する「対話型ノンフィクション」というものらしい。そうですか「対話型ノンフイクション」って言うんだぁ……はじめて知りました。

 
 

『遠い「山びこ」 無着成恭と教え子たちの四十年』


昭和23年、自分たちで作った文集「山びこ学校」が、突然“戦後民主主義の成功例”と、世間からいきなり持ち上げられ注目を集めてしまった新米教師・無着先生と43人の教え子たちがいました。いたんですよ、あったんですよ、そんなことが……実際に。「山びこ学校」は映画化にもなったし、すごかったんです。無着さんは、いまでいうコメンテーターみたいな立場までブレイクして活躍して……。で、そんな華やかなことは、佐野は追わない、佐野には関係ねぇ。佐野が追ったのはそれぞれの40年後。激動の戦後日本社会に翻弄されていく無着先生と43人の生徒たちの人生をグイグイ追います、丹念に追っちゃいます。その人生ひとつひとつが、切なくて、残酷て、もの悲しいんです。

『東電OL殺人事件』


古ぼけたアパートで絞殺された女性は、昼は大企業のOL、夜は娼婦殺された娼婦であった。なぜ彼女は夜の街に立ったのか? そして、逮捕されたネパール人は真犯人なのか? 本人曰く“地を這うような取材を繰り返し”無罪判決までを追った、骨太な事件ノンフィクション。続編というか、関連本、姉妹本的な作品がこちら。『東電OL症候群(シンドローム)』。それにしても、いま佐野が執拗に追いかけ糾弾しているのが、原発問題であり、ひいては東京電力。東京電力とはこの頃から浅からぬ縁があったようである。