紫陽花双鶏図 紫陽花双鶏図

近年一大ブームを巻き起こした伊藤若冲や歌川国芳を始め、岩佐又兵衛、狩野山雪、曽我蕭白、長沢芦雪という6名の画家の独創的な作品群を紹介した、美術史家・辻惟雄による著作『奇想の系譜』。本著で取り上げられたこの6名に、白隠慧鶴、鈴木其一を加え、江戸絵画の魅力を再発見しようという展覧会、「奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド」が、4月7日(日)まで、東京都美術館で開催されている。

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『奇想の系譜』というタイトル通り、8名の画家それぞれの斬新でオリジナリティあふれる作品の数々を、いいとこどりで楽しめる本展。その1番手に登場するのが、2016年の大回顧展が社会現象にもなった、伊藤若冲だ。若冲の代名詞とも言える“鶏”だが、今回はその最高傑作に挙げられる「紫陽花双鶏図」を展示。その細密な描写と大胆な構図には、観る者の目を一瞬にして釘づけにする圧倒的な美しさがある。また近年見出された新出作品「鶏図押絵貼屏風」は、踊るような筆使いとどこかユーモラスな鶏の表情が光る、最晩年の秀作と言えるだろう。

精緻なタッチとグロテスクな描写が人気の曽我蕭白。「雪山童子図」などいかにも蕭白らしい作品の中、雄大な富士山に遊び心を加えた「富士・三保松原図屏風」(展示は3月10日(日)まで)など多彩な作品群が並ぶ。さらにエンターテイナーとして観る者を魅了する長沢芦雪は、やはり「白象黒牛図屏風」が圧巻。まず目を奪われるのは、右隻の白い象と左隻の黒い牛の堂々たる姿。だが牛の腹の横で舌を出し、ちょこんと座る仔犬が、実は本作の主役なのではないかと思われるほど、愛嬌たっぷりの存在感を発揮している。

白隠慧鶴の作品は、禅僧として仏の教えを伝える手段として描かれているのが特徴。その作風は力強さと軽妙さを兼ね備えており、中でも「達磨図」に代表される達磨を描いた作品が目を引く。「宮本武蔵の鯨退治」などで見せる歌川国芳の錦絵は、まるで現代アートにも通じるようなポップさ。その飛び抜けた発想力は、江戸庶民から現代人までをも魅了する。ほかにも独自の極彩色が印象的な岩佐又兵衛。酒井抱一の弟子ながら、若冲の影響も滲ませる鈴木其一。大作「龍虎図屏風」でダイナミックかつユーモラスな水墨の龍と彩色の虎を描いた狩野山雪。虎図は若冲、蕭白、芦雪も描いており、それらを見比べるのも楽しい。

なお会場では、前出した芦雪の仔犬をモチーフにしたものなど、オリジナルグッズの販売も充実している。また、お得な新・北斎×奇想の系譜セット券も発売中。

取材・文:野上瑠美子