東京ビッグサイトで開かれた「Maker Faire Tokyo 2015」には、猛暑の中多く人が訪れた

ハードウェアを手作りする愛好家やプロフェッショナルが作ったモノを展示・発表する祭典「Maker Faire Tokyo 2015」が8月1日と2日の2日間、東京ビッグサイトで開催された。2008年に開かれた「Make:Tokyo Meeting」から数えて11回目の今回は350組が出展し、およそ1万5000人が来場した。会場は、密かに燃え続けているモノづくりニッポンの爆発的なパワーを感じさせる熱気にあふれていた。

連日35℃を超える猛暑日が続く東京・お台場のビッグサイトは、多くの「Maker」達が大集結。「モノづくりの成果を発表」と聞けば、静かでお堅い発表会かと思いきや、さにあらず。目を輝かせた子どもから白髪交じりの大人まで老若男女が入り交じって猛暑を吹き飛ばす勢いで大いに盛り上がっていた。

特に目を引くいたのは、脱力系のキカイ達。例えば、すでにニコニコ動画などで有名な「論文まもるくん」はその筆頭だろう。北九州高専のOBが結成したモノづくり集団NEXT+αが出展した作品だ。キーボードから手が離れ一定時間を経過すると、箱からアームが出現し、Ctrl+s(保存を行うショートカットキー)を押すという、ただそれだけのマシン。PCで文章を書いたりしている時に、自動的にセーブするので、書きかけの論文が不慮のトラブルで消失することを防ぐ、論文を守る機械、というわけだ。

通常ならソフトウエア処理してしまうところを、わざわざハードウェアを起こして解決してしまうところが、なんともお茶目。実際に回路図を自分で書いて設計し、複雑な形状の部品は3Dプリンタで出力。筐体はレーザー加工機で切り出して作るという力の入った作品だ。作者のひとり河島 晋氏は「人がスイッチをONにすると、中から棒が出てきてOFFにするだけの機械、Useless machineにもヒントを得ています。しょうもない機械なんですが本気で作りました」と話してくれた。

もちろん、マジメなものもたくさんある。例えば、PCN(プログラミング クラブ ネットワーク)が出展した「IchigoJam」は、子どものITリテラシーを高めるのに大いに貢献しそうなPCキットだ。BASICプログラミング専用で、わずか20点足らずの部品を基板にハンダ付けすればできあがる。販売もしており、税込価格でわずか1500円という価格に驚く。5000円台で買える「Raspberry Pi」を彷彿とさせるが、これははるかに安い。「Raspberry Pi」へのリスペクトから生まれ、1500円なので「IchigoJam」なのだという。インターネットに接続することはできないが、テレビとキーボードをつなぐだけで、プログラミングを楽しめる。

コンピュータの自作といえば、KataandTaka出展の「スーパーLチカコンピュータ」には驚いた。ICの代わりにLEDで作られたコンピュータだ。その昔機械式のリレーで作られた計算機が存在していたが、これはその現代版。コンピュータの原理である、論理回路を発光ダイオード(LED)で構成するというアイディアの作品だ。4枚の大きな基板にびっしり部品を配置しながらも、小数点2桁までの円周率を計算するのに2-3秒を要する。とはいえ、まさにCPUを個人で作ったようなものだ。

自作のロボットも多数出展されていたが、今年は癒やしを意識した出展が多かった。karakuri productsの「けだまちゃん」は、呼吸する様子を模したロボット。触ると呼吸しているように動く。眠っている小動物のかわいらしさを毛に覆われた玉で再現した。手に取ると、なぜかほっとする。海外から取材に訪れたプレス関係者が、力強く押さえたため、けだまちゃんの内部から「バキッ」と不穏な音が響き、出展者を慌てさせる場面もあった。

最も発想の「やわらかさ」を感じたのは佐々木有美+ドリタの「スライムシンセサイザー」だ。キーボードの代わりに、本体上部からずるずると落ちていくスライムを使うシンセサイザーだ。ロシアの発明家が考案した世界初の電子楽器、テルミンに似た楽器だが、触覚を楽しみながら演奏したり、スライムに蛍光塗料を仕込み、暗闇でブラックライトを当て、光らせながら演奏したりと、これまでにない音楽体験ができる。

アナログ機械も数多く出展されている。見ていて心が和んだのは、はらっぱ技術研究所の横田式手動大豆選別機だ。ハンドルを回すと、粒の大きさで、大粒、中粒、小粒で選別し、備え付けたざるに落とすというもの。一切の動力も電気も使わない、選別する網の二重構造に秘訣がありそうだ。そのほか、3Dプリンタで出力しながらも、結果的には全くアナログな「柿の種玉座」は個人的に気に入っている。ススガ/全自動Pの出展だ。「柿の種を飾って鑑賞してうっとりするための」台座、ということだが、柿の種を飾ろうという発想が自由すぎて突き抜けている。

とにかく、何でも作ってみよう、やってみようというのが「Maker Faire」のおもしろいところだ。インターネットの急速な普及で、幅広くニッチな趣味趣向の人たちが結びついてノウハウが蓄積され、それに最新のテクノロジーが重なり合って、新しい世界を作り出していく。ナンセンスでばかばかしいものも山のようにあるが、そんな真剣な遊びから何かが生まれる。今回の「Maker Faire Tokyo 2015」の目玉イベントは、今回日本で初公開されたEepyBirdのメントス×コーク大噴水ショーだった。EepyBirdはスティーブン・ヴォルツ氏とフリッツグローブ氏の二人組。ダイエットコークにメントスを入れて噴水のようにコーラを噴出させるパフォーマンスで酷暑の会場を大いに沸かせた。

「Maker Faire」は、プログラミングの専門書などを出版している米オライリー社が主催し2006年にカリフォルニアでスタート。2014年には世界131か所で開催され、関連イベントも含めると76万人が参加した。2005年に同社が発刊した雑誌「Make:」を発端とする。「Make:」は、「工業の個人化」と「ハードウェアハッキングの可能な機器の普及」がもたらすテクノロジーと人々の関係を伝える雑誌として誕生。テクノロジー「民主化」の中心的な存在で、ハイテクを駆使して作りたいモノを作っていく「Makerムーブメント」の発信源になっている。(BCN・道越一郎)