最優秀作品賞受賞『ビヘイビア』(C)RTV COMERCIAL, Ernesto Daranas & Alejandro Perez

回を重ねて12回目の開催となった“SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2015”が先月26日に閉幕した。新進監督の発掘を掲げる長編コンペティション部門で今年も存在感を見せつけたのは海外のディレクターたち。今回審査委員長を務めたユーロスペース代表でプロデューサーの堀越謙三氏も総評で海外作品のクオリティの高さを称賛した。

その他の画像/SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2015

その中でも際立ったのが見事に最優秀作品賞に輝いた『ビヘイビア』だ。キューバのエルネスト・ダラナス・セラーノ監督が手がけた本作は、すでに報じられているように、堀越氏をはじめとする審査員を務めた4人全員が最高点を与え、文句なしの受賞であった。しばしば賞と観客の評価は相容れないものだが、今回の受賞に限っては納得。というのも2回での上映での観客の評価も群を抜いて高かったからだ。監督自身の境遇でもあり、主人公チャラを演じた少年自身のバックグラウンドも反映させられたドラマは、キューバの国内事情をさりげなく盛り込みながらドラッグ中毒の母親を支えて日々を懸命に生きる少年の成長をリアルに描写。社会の底辺に眼差しを注ぎながら、人の偏見や思い込みに対する痛切かつ普遍的なメッセージが浮かび上がる。さらに注目すべきは決して恵まれた制作環境やバジェットで撮られたわけではないこと。おそらく登場人物も場所も予算もかなり限られたものと見受けられる。ところが人間を深く掘り下げた秀逸な脚本としっかりとしたビジョンが感じられる力強い映像で、それらのハンデを見事に克服している。この確かな力量とアイデアへの探究は、日本の若いインディペンデント作家たちは大いに参考になるに違いない。

一方、監督賞を受賞した『絶え間ない悲しみ』も賞賛に価する力作だった。ひとりの男の子供を宿した二人の女性の物語。メキシコの片田舎を舞台に、未来の選択を迫られる二人の女性の心情が描かれる。セリフを排除した前半から只ならぬ緊迫感が漂う独特の演出力と、メキシコの広大な荒野を存分に生かした映像美が目に焼きつくほど印象的だ。アレハンドロ・ゴンザレス・イリャニトゥを筆頭に近年、世界で活躍する才能を輩出しているメキシコ。新たなメキシコの新鋭としてホルヘ・ペレス・ソラーノ監督の名は覚えていて損はないだろう。

ほかにもレバノン生まれのアミン・ドーラ監督がダウン症の子を持った父親が社会の目を変えようと奮闘する様を描いた『ガーディ』、ハンガリーのカーロイ・ウッイ・メーサーロシュ監督の異能が弾け、日本映画へのオマージュも随所に登場するコメディ『牝狐リザ』など、海外勢は独自の色がある作品ばかりで大きな存在感を示した。

それに対して、残念ながら日本勢は圧倒された形。来年の巻き返しに期待したい。

取材・文:水上賢治